美学校音楽美学講座有志による自主ゼミ(http://musiccourse.jp/blog/)第3回:芳垣安洋氏によるリズムに関するレクチャー@京橋映画美学校

  • 芳垣氏フリートーク:リズムとは何か/リズムをいかに捉えるべきか

 音楽の三要素は一般に、リズム、メロディ、ハーモニーと言われる。そのうち、リズムは人が何かしようとする時、何かしているとき常に存在するものであり、リズムがあれば、メロディ(節/うた)が存在し、メロディが二つ以上同時に存在すればハーモニーが生まれる。生活の中に認められるリズムと音楽におけるリズムに大きな隔たりはないと考えている。世の中のものすべてにリズムは存在している。その面白さを日ごろから感じることが大切である。街中で電車が橋桁を揺らし、往来を自動車が行ったり来たりしている。朝、目が覚めると、小鳥がさえずっている。そこにはすべてリズムが存在している。楽器を演奏するかしないかにかかわらず、すべてのひとに、そのリズムの面白さを感じてほしいと思う。そして、そこから何か表現したくなれば、すればよい。
 自分のリズムを楽しく表現することを念頭において音楽を演奏しているが、表現の仕方には誰にもその人なりのこだわりが生じるものだと思う。そこで、自分が何が楽しいかということを、その場で奏でられているものに耳をすませて追求してほしい。
 打楽器は一般にリズムを表現するものとして捉えられがちだが、音にある様々な表現(音色・減衰・ピッチなど)に目を凝らすと、そこには「メロディ」が存在している。音がどこへ落ち着くか、ということに常に注目してほしい。そのためには、先に述べたような生活において「耳を拡げる」ことが大切。リズムは常にあり、その中で自分が一番面白く感じられるのは何かということを常に考えていてほしい。
 音を出す、ということは譜面上の打点を演奏するだけではない。ある譜面に記された音を発音させるために最適な動作があり、音は常に減衰している。音の響きに耳をすませて、意思を持って音を出すことが必要である。その場に出ている音に注意すること。全員が「リズム」を出してアンサンブルするのがベストなのだから、音を聞き合うことも非常に大切な要素になってくる。音を聞きあうことで「生きたリズム」が生まれてくる。場合によるが、テンポが常に一定でなければいけないということはない。演奏中に、気分が高揚してどんどん走る(テンポが速くなる)ことがあるが、その際もきちんとアンサンブルできていれば、それは良い演奏に成り得るだろう。60-70年代のロックの名演奏を聴くと、曲の始まりと最後の部分のBPMが違うものはざらにある。一定の時間軸を正しく捉える為にはメトロノームを使った練習も効果的である。

リズムの基本構造は、3拍子と4拍子のポリリズム。芳垣氏は3連符(3拍子)と16分音符(4拍子)の中間の訛ったリズムを出している。基本的に4拍子担当。3拍子を叩く藤井氏に対して4拍子を強調するために16分音符を叩いている(最終的にはツインドラムが共に3拍子で演奏)。同時に演奏されているリズムは常に気に留めているが、特にモニタでは坪口氏のキーボードとブラス隊を返しながら演奏。
 5'30"前後のブレイクの後、津上氏によるソプラノサックスソロがあるが、このあたりは、6拍子(3拍子を2で割る)で演奏。
 14'25"前後のハイハット(左足で演奏)は芳垣氏が4拍子で、藤井氏が3拍子。この時、パーカッションは、コンガの大儀見氏が3拍子ベースのリズム、タブラの吉見氏が4拍子ベースのリズムを刻んでいる。
 キーボードの菊地氏はその時々で、3拍子、4拍子を自由に演奏している(強調したいリズムにパン/フォーカスしている)。

    • DCPRG / 構造2 (音源:同上)

 全員が異なるテンポで演奏するのがリズムコンセプト。自分のテンポを守ればOKだが、他の人のリズムに耳を奪われることもある。菊地氏から前もって各人のおおまかなテンポについては指示があり、同氏のキューで演奏に出入りする。テンポの速さは芳垣<栗原<藤井の順で早い。吉見氏と大儀見氏は、好きなテンポで演奏している。
 『アイアンマウンテン報告』収録の「Catch 22」と同様のリズムコンセプトであり、既存のグループだと、オーネット・コールマン・プライム・タイムに似たコンセプトの楽曲が存在する。アンサンブルの人数が少ないほど、演奏は容易になる。『構造と力』レコーディング時はクリックを聴きながら、それぞれが別録りしている。

    • DCPRG / 構造1 (音源:同上)

 リズムは5拍子(一部4拍子のパートがある)。左足のハイハットで5拍子を刻み、スネアドラムは4拍子。5拍子二アリーイコール2拍3連の解釈を行い、リズムの揺らぎを出している。リズムフィギュアとしては、キューバの宗教音楽サンテリアやルンバにも見られるもの。

    • Oruquesta Nadge! Nadge! / Waltz/PE

 リズムは5/8拍子+7/8拍子。

    • Oruquesta Nadge! Nadge! / Vibrapan 7 

 7/8拍子(だったかな?失念)

    • Oruquesta Nadge! Nadge! / Bunbaka 19--Tinga! Tinga!

 リズムは19/8拍子。トルコなどアラブ圏の民俗音楽に存在するリズムフィギュア。

    • Vincent Atomics / MBIR・VA  (音源:VINCENT(2) メディア:CD)

 3拍子と4拍子のポリリズムジンバブエの民俗音楽、チムレンガに存在するリズムフィギュア。