マイルズ・デイヴィス / The Complete Birth of the Cool



あー、俺、さんざ、クロード・ソーンヒル云々言ってたけど、これ、聴いていなかったな、と頭を垂れて反省物です。しっかし、3曲目の「ムーン・ドリームス」を聴いたら、もうびっくりした。こりゃ、ギルのアレンジだ。ソーンヒル楽団のサウンドがそのままマイルズ風味になってトレースされている。そういった点で、『クールの誕生』は、わたしが言うのもなんだが、真にイノベーティヴな音楽であるとは言い難い。けれども、ひじょうに心地よい。音楽が革新的であることと、音楽のもたらす快適さが一致しないのは言うまでもないけれど、このアルバムにはマイルズ楽団のとてもインティメイトな空気がパックされている。愛聴盤となりそうな予感大だ。


ライナーも凄く充実していて、同アルバムの録音に参加したトロンボニスト、マイク・ツベリンの文章が特に良いのだけれど(ジェリー・マリガンのテキストも実に味がある)、そのあと、部屋の床に寝転びながら文藝別冊のマイルス特集をぱらぱらと眺めていたら、同じ文章が日本語訳されていて載っていた。せっかく訳そうと思ったのに、ちょっとやる気を削がれてしまった。1966年の『ダウンビート』誌に載ったものの転載らしい。




わたしがマイルズに興味を持ち始めたのは、やはり菊地成孔デートコースペンタゴンロイヤルガーデンを聴いてからだ。周りにマイルズがすき、という友人は何人かいたから、彼らにもいろいろと聴かせてもらった。とくにエレクトリック期のものが多かった。そのあと同氏が東京大学教養学部で行ったマイルズ・デイヴィスについての講義も、マイルズに対する興味をさらに深めることになって、クインシー・トループによる彼の自叙伝も読んだけれど、今年はさらに(といっても、あと5ヶ月しかないが)マイルズの作品をいろいろと聴いてみたい。