[映画]溝口健二監督 / 残菊物語(1939年、松竹)

残菊物語 デジタル修復版 [Blu-ray]

では、あらすじを少しばかり。
東京の歌舞伎役者の2代目は親の威光でチヤホヤされているが、自分の藝の深さについて疑問を持っており、また家柄に縛られず自由に生きたいと思っていて、周囲の喧騒の中でもひとり孤独である。そんな彼を優しく見つめ続ける女中のお徳に、2代目の母が疎ましく思って暇を出してしまう。2代目はにわかに驚き、お徳を探しにゆき、彼女への気持ちが愛であることに気づく。
んでまぁ、そのあと2代目は大阪で役者をやっていると、そこに女中が押掛け女房、その後、遂には旅芸人(どさ回りをする、田舎歌舞伎の役者)にまで身を落とすが、女房のお徳に助けられながら藝の真実をつかみ取ってゆく…。

まぁ、こんな感じの素朴なストーリーです。現代のフェミニストからすれば、お徳の主体性の薄さと男に尽くし続ける点が、激しく非難されそうだが、1939年という時期に藝道を追求する歌舞伎役者の話を撮ったりして、世評はどうだったのだろうと思う。当時の『キネマ旬報』では良い評判だったらしい(ウィキペディアより)。まぁ、シナの方の戦争はすでに泥沼化しているわけですが、米国とはまだ戦端を開いていないので、世間の雰囲気もそこまで深刻ではなかったのでしょうね。

とにかくモノクロの画面が美しく、また2代目始め、歌舞伎役者たちの立ち居振る舞いにも目を奪われます。音楽の使い方も実に良い。でまぁ、ケチをつけようと思えば、2代目の藝が向上していく様があまり具体的に表現されないので、その描写不足・説明不足はどうなんだと、思ったりもしますが。この作品、人気があったようで、戦後にも2回程映画作品としてリメイクされています。