小熊英二 / 民主と愛国(新曜社)



2週間以上かかってようやく通読した。以前同じ著者の『単一民族神話の起源』に挫折したがあの本より分厚いのではないか。


小熊は「戦後」と呼ばれる1945年以降の日本をふたつに分ける。第一の戦後が、1945年から55年まで、55年以降から90年までが第二の戦後である。
第一の戦後の時期は、面白いことに左翼、革新勢力が「真の愛国者たるもの革命を目指せ」
というようなスローガンを掲げナショナリズムコミュニズムが必ずしも分けて語られるものではなかったそうな。
第二の戦後は、日本が実質的に米国の間接統治下に入り、経済成長を迎えていく時期。
アメリカの反共意識の影響で、日本も再軍備を命じられたが、安保運動の影響で憲法改正までには至らなかった。
小熊は憲法改正を牽制した安保運動に一定の評価を与えている。
保守ナショナリズムはこの時期、親米的態度を余儀なくされ、革新勢力はナショナリズムや真の愛国というタームを使えなくなった。
さて、冷戦の終結と共にいまやわれわれは第三の戦後を迎えている、というのが小熊の主張。
いままでの「戦後」言説の混乱を是正し、すでにあるタームから、新たな「意味」を創り出さねばならんとのこと。


面白いことに、「単一民族」や「民族」という語の定義が時代と共に変遷しているらしいことも、この本を読めば判る。
とても緻密な仕事だが吉本隆明江藤淳への鋭い批判や小田実鶴見俊輔らの
行動と思想の絡み合いを平明に説明し、日本の現代思想史の紹介本としても読める箇所が多いのは、楽しい。


あまりに分厚いので、じっくり読む人は、ノートをとって、要点を整理したほうがよいかもしれない。そんな感想。