伊藤俊治 / 裸体の森へ (筑摩書房)



 米国の1920年代から80年代にかけてのポルノグラフィ年代記。ポルノ写真の変遷を通して、20世紀の合衆国におけるエロティシズム、男が欲望するファム・ファタールの変容を描いている。性的欲望を喚起する装置としてのポルノ写真への分析を通して、エロティックであるということが、いかに社会的な要素に満ちているか、ということを明瞭にしているが、文体は美に殉じようとする濃厚なポエジーと時代ゆえか、妙な高踏がある。出版が1985年なのです。

 20年代のポルノ写真は、今に残るものから著者の審美眼に適うものを選んでいるせいか、ふしぎに品の良さを感じる。当時の米国における性的抑圧はこんにちの比ではなかったはずで、そういった性に対してきわめて抑圧的な世の中で流通した猥褻写真(敢えて言えばこれは「アングラ」に相当するようなものだろう)には匂い立つようなエロスが感じられた。例えば、ほぼ着衣だが、両の乳房のみを露出させている若い女が、ゆったりと腕を相手の肩に委ね、官能的かつ少し眠たそうな表情でもうひとりの着衣の女にもたれかかっている(そのポージングは、この後、女ふたりが愛欲に耽ることをそれとなく示唆している)一枚がある...。極めて魅力的である。

 昨今、乳房が今にもまろび出そうなバスト・コンシャス洋装の婦女子は日本全国にも掃いて捨てるほどいるが、性的抑圧が強かったピューリタンの国が持つ、暴力、緊張、そしてそれ故の弛緩(のようなもの)がこの一葉には濃密でとても面白かった。60年代『プレイボーイ』誌らが牽引したグラビア巨乳美女(当時のことばでいえば「グラマー」)の系譜は、今日の日本でも根強い人気を誇っているわけで、そのあたりも図版が豊富で解説も充実している。