三島由紀夫 / 春の雪 (新潮文庫)



 『豊穣の海』第一部である。正直読むのが辛かった。難読漢字が多くて、読みにくいのである。実は、彼の評伝や対談などは父の書斎でめくったことがあったが小説作品を読むのは初めてだ。
 一読した感想は、文章が装飾的に過ぎるということだ。細部まで三島の「目」に描写されていて、それを押しつけられているような気分になる。きわめて観念的で、饒舌ではあるが、それが巧みさを損ねている気がした。彼の文章は決して流麗ではない。ごてごてしたアクセサリを身にまとって、足取りは重い。
 無垢な、そして美的な死への強い憧憬を主題とするロマン主義的作風がいまの気分にそぐわないのかもしれないが、折角の機会だから彼の作品を溯りつつ、もう少し読んでみたい。もう少し幼い時分(例えば中学生くらい)だったら感じるところが違ったかもしれない、と思った。