ヴィクター・フレミング監督 / オズの魔法使



 『オズの魔法使』の「Over The Rainbow」は本当に素晴らしい歌だ。聴きながら、涙目になってしまいドキドキした。「悩み苦しみもやがてレモンドロップのように溶けるよ」という歌詞がずーんと胸を突き、あわや落涙せんとしたが、何とか耐えた。昔の映画に時折垣間見られる想像を絶したイノセンスにやられてしまったのだと思う。
 この歌には本当にハピネスがある。「夢」が、まだ人生における希望として信じられていたのだろう。少なくとも一瞬でも何かひとに夢見させてくれるのは、そこに作り手の夢見る意思が込められているからに違いない。それは、現実には祈りのようなものだったのかもしれないが、果たして2005年のわたくしは濃厚な多幸感にしてやられてしまった。


 1900年に発表された小説が元になっているこの映画は、無声映画時代にも製作されており、小説作品そのものがかなりの人気を博したようだ。フレミング監督作が公開されたのは、時代はだいぶ下って、第二次大戦の最中ということになる。この作品の最後でジュディー演じるドロシーが「我が家に代わる場所なんてない」と、夢うつつで何度もつぶやくシーンがあるのだが、この物語がヒットしたのは、稚気溢れた陽気なミュージカルと「家庭がやっぱり一番だ」という純朴かつ保守的なメッセージが、戦時下の米国人のハートに響いたからではないだろうか、と愚考した次第。


 1939年−映画公開と同年−にマリオン・ハットンがグレン・ミラー楽団をバックに録音した「ディンドン、悪い魔女は死んだ」(Ding-Dong! The Witch Is Dead!)という曲が好きだったのだが、オリジナルがこの映画で歌われているということを知った。しかし、よくよく考えてみると、30年代のミュージカル映画は、ブロードウェイでの舞台のヒットを見て、製作されることが多かったはずだから、例に漏れず『オズ』も、もともとは舞台作品だったのだ。そして、音楽も舞台版からの流用なのだろう。
 と思いきや、ちょっと調べてみると、ハーバーグ=アレンコンビは同映画のために音楽を新しく書き下ろしたとある。ヒットソングが映画から生まれていた古きよき時代。モノクロパートとテクニカラーのギャップも楽しい。