オムニバス / 乱歩地獄



 複数の監督による短篇で構成された作品ですが、中でも佐藤寿保監督『芋虫』が傑作です。特にエロ描写の迫力がすばらしく、また、音楽は大友良英が担当していて、音の不思議な存在感が印象的でした。映画を通じて愛や狂気や所有欲や肉慾という人間の業について考えさせられます。


 実相寺昭雄による『鏡地獄』は、監督の作品になっていました。カメラの使い方が独特です。観客を優れてドキドキさせる感じが出ていました。短いながらも、「詰まっている」感じがあるのです。見応えがあります。原作とはだいぶ異なりますが、こういうアレンジであれば許せる。独特の美学があるのですね。脚本は同監督と『D坂の殺人事件』で組んだ薩川昭夫ですが、せりふ回しもすばらしくなかなかよかったです。


 映画作品は現代の観客に何かしら訴えねばならぬわけであって、さすれば劇中での携帯の使用や長髪の浅野な明智もやむなしと思えなくもない。しかし、映像メディアと活字メディアの魅力の差異は、やはり受け手に「想像や妄想の余地を与えるか否か」というところですね。活字メディアが喚起する妄想のポテンシャルは、総じて映像メディアのそれを上回る傾向があるような気がします。好みもあるとは思うのですが、妄想できる余地が広がっている方が、より楽しいです。


 映像の良さもあるには違いないのです。しかし、結局、乱歩の原作の素晴らしさに思いを馳せることになりました。あまり乱歩の作品を読んだことがないようなひとで、ホラーっぽい雰囲気の映画が好きで、浅野ファンであればぜひ観るべき作品です。むしろ映画としては、乱歩好きだけに受けては商売にならないわけだから、俳優陣なども売りのひとつで、上記のような人を集客したいのでしょう。そこから乱歩ファンが増えれば、またそれはそれで素敵なことだと、乱歩ファンの小生は思います。