銀林みのる / 鉄塔 武蔵野線 (新潮文庫)

鉄塔 武蔵野線 (新潮文庫)

 「―アキラ、すごい作戦があるんだけどな」
 お菓子を食べてしまってから、わたしは径ろに話を持ちかけました。相手を誘うにあたって、それを作戦と言ったり、探検と言ったり、調査と言ったりすれば、相応の効果が生ずることを、わたしは経験上体得していました。案の定、アキラは乗ってきました。
 わたしはアキラと表に出ました。そして左右のずれた異形鉄塔の下まで連れて行き、「この鉄塔は75-1なんだ」といきなり核心に触れました。アキラは要領を得ないらしく、蝉の声に洗われながら、<それがどうした?>という目でわたしを見返しました。わたしはアキラを従えて表通りへ出向き、今度は75号鉄塔の下に連れて行きました。そして鉄塔を内側から見上げて中心を測定し、そこに手製のメダルを埋めました。アキラは質問もせず、わたしのすることを黙って見ていました。


p.44



 わたしの実家の近所にも鉄塔狭山線が走っており、小さな頃から鉄塔を眺めて育ったので、この作品にはすっかりはまってしまった。「ミハルとアキラのふたりでいえば、わたしはどっちかというと、アキラだなあ」と思いつつ、読み終えるのに2週間かかりましたorz