宮沢章夫 / 『資本論』も読む(WAVE出版)

『資本論』も読む


「『資本論』も読む、というタイトルだが、むしろ、資本論も『読む』というタイトルにしたほうが的を射ているのではないか」と思ったが、そんなことはたいした問題ではない。「読む」という行為について深く考えを促す1冊。



 おそろしいほど「商品の概念」は難解だった。きちっと理解したとは言いがたい。つまり、「読み終えた=理解できた」ではありえないということで、読みながら次のような一節をノートに書き写したとしても、理解してそうしたとはけっして言えない。
 「諸労働生産物を無差別な人間労働の単なる凝固として表す一般的価値形態は、それ自身の構造によって、それが商品世界の社会的表現であることを示している。こうして、一般的価値形態は、この世界のなかでは労働の一般的な人間的性格が労働の独自な社会的性格となっているということを明らかに示しているのである」
 もちろん、「一般的価値形態」をはじめ、「相対的価値形態」「交換価値」「等価形態」といった言葉の概念をきちんと把握してはじめて文脈を追って読むことができるはずだが、よくわからないなりに、その部分が印象に残ったからノートに書き写したのだろうし、何か響くものがそこにあったにちがいない。
 つまり、「わからない」を、「わからないとして味わう」である。この「味わう」がなければ本を読むことにどれほどの意味があるだろう。単なる「書物からの理解」は、いつだって「現実」の前では脆弱であり、「現実」の強さに嘲笑され続ける。しかし、だからこそ読み続けること。ただ読み続けるしかないと私は考える。


pp.78-79