映画美学校/音楽美学講座/特別講義:日本レコード産業の構造について@京橋・映画美学校

講師:烏賀陽(うがや)弘道岸野雄一

  • LPからCDへ
    • 1982.10 CD(コンパクトディスク)発売。ソニーからCDプレーヤー「CDP-101」発売(定価:16万8千円)、今の50万円くらいか。高級オーディオ装置として世に出る
    • 1984 ソニーからCDプレーヤー2号機「D-50」発売(定価:5万9800円)。1台製造するごとに5万円の赤字だが、当時の盛田会長の英断で発売決定。当初は赤字だったが、のちに黒字に転ずる
    • 1986〜1988 CD生産高がLP生産高を追い越す
    • 1988 「J-POP」という言葉が生まれる。J-WAVE内で「J-POP CLASSICS」という番組始まる。当時日本のレコード市場は3000億円(生産高)規模。
    • 1998 日本のレコード生産額が戦後最高記録:6075億円を記録
  • 「J-POP」というマーケティング用語
    • J-WAVEは米LAのFM局からライセンス取得し開業したFM局で、開局当初は洋楽しかかけなかった。
    • 同局内では「邦楽」(日本の流行歌=歌謡曲、ポップス)は「洋楽」に比べてダサいという価値観が支配的であり、カッコイイ=洗練された「邦楽」(アメリカンポップスからの影響が顕著な山下達郎大滝詠一松任谷由実など)をかけるには新しいネーミングが必要だった。
    • 当時、J-WAVEではチャゲ&飛鳥長渕剛などの歌謡曲臭の強いものは選曲から外され、リクエストはがきが千葉や江東区から来た場合は、住所を読み上げないほどブランドイメージを重視した。
    • 「J-POP」はJ-WAVEディレクターとメジャーレコード会社の宣伝担当者6名により考案された、マーケティングの言葉。ジャンル名に弱い日本人の音楽ファンを狙った。パンクや、グランジといった音楽ムーブメント名ではない。
  • CDプレイヤの急激な普及
    • 1984〜2004年の間で1億1990万台が売れた
    • 1988〜1989年ころには店頭実勢価格が1万円を切る
    • レコードプレイヤ(LP,EPの再生装置)は42年間でわずか2341万台
    • 普及スピードはレコードプレイヤの11倍、売り上げのべ台数は5倍
    • CDプレイヤ(ハードウェア)の着実な普及により、CD売上を確かにするためのインフラが完成した
  • 音楽リスナーの変化
    • CDプレイヤの低価格化に伴い、それまでのCD購買層が成人男子から若年女性、ティーネイジャー(10代)にシフト
    • 上記の変化に伴い、楽曲のターゲットが、女性や若者向けにシフトしていく
    • 1986 男女雇用機会均等法の制定に伴い、女性の購買力が上昇。「仕事をしながら生きていく女性のアイドル」として「Girls Pops」と呼ばれる、渡辺美里プリンセスプリンセス中村あゆみ白井貴子などが人気を得る(旧来の「アイドル」、山口百恵小泉今日子などは男性向けの商品だった)
  • 1990年代のCDバブルとテレビタイアップ
  • 1998年 J-POPの失速
    • 楽曲の画一化...コマーシャルタイアップに売上げが依存し、企業イメージを損なう楽曲の回避が常態化する
    • ソウル・フラワー・ユニオンの「復興節」(阪神大震災のはげましソング)がソニーによって没にされる(インディーズでリリース)
    • 毒にも薬にもならない音楽の多産化
    • コマーシャル商品の発売サイクルの短期化に伴い、楽曲のヒット期間も短期化する
    • インターネット人口の急増に伴い、消費者へのマスメディアとしてのテレビの影響力が低下、テレビタイアップの効力も低下する(テレビ依存が仇となった)
  • J-POPの海外需要
    • J-POPの99.5パーセントは国内消費、0.5パーセントのみ輸出されている(ほとんどアニメソング)
    • 米国のポップスは五分の一が国外で消費、英国のポップスは三分の一が国外で消費→国際競争力がある
    • 日本は世界で米国に次ぐ2番目に大きなレコード市場。国内だけで儲かるので、海外進出する動機が無い
    • 2004年の日本のレコード生産高を元にすると、東アジア圏の市場の大きさは下記のとおり
      • 韓国:日本の20分の1 (ブロードバンド環境が日本より進んでおり、音楽のデータ販売が盛ん)
      • 中国:日本の50分の1(富が都市部に偏在しており、富裕層しかCDを買わない/共産党による検閲の問題)
      • 台湾:日本の32分の1
      • 香港:日本の50分の1(総人口が埼玉県並で2万枚売れれば日本のミリオンセラーに匹敵する)
    • 上記の理由から、日本のレコード会社が東アジアの市場に進出するのは宣伝効果を狙ってのこと。実利に乏しいので、本気で金儲けする動機は見当たらない
  • CD不況だが、音楽業界は好況
    • 著作権収入の上昇...1998年の985億円→2005年の1136億円(JASRAC調べ)
    • 日本国内のインタラクティブ配信(音楽のデータ販売)上昇...ほとんどを携帯電話の着信メロディ/うたが占める。
    • 2005年の著作権収入の8.1パーセント中7パーセントが携帯電話用の音楽配信iTMS型のネットストア販売はわずか1パーセント。
    • コンサート売上...2000年の1243億円→2004年の1364億円
    • CDは売れていない→レコード業界(レコード会社)は困るが、他の音楽業界は好況と言っていい
    • 今後の展望...1877年のエジソン蓄音機発明以来最も大きな音楽産業の過渡期(ディスクからデータへ)にあたり、CD売上は下がり続けることが見込まれる。インタラクティブ配信やDVD販売の先行きは不透明
  • カラオケとJ-POP
    • 1988 カラオケボックスフランチャイズ化始まる
    • 1992〜1994 (データ)通信カラオケの普及。音源製作と配布のタイムラグがほとんどなくなり、J-POP人気と相互に影響
    • 平成不況で、カラオケにおける企業接待が2〜3割減しており、カラオケ市場は縮小傾向にある




  • 音楽とジャーナリズム
    • Jポップとは何か―巨大化する音楽産業 (岩波新書)』執筆の動機...日本のポップス産業構造について書かれた物がなかったから、自分で書いた
    • 10年間で売上げを倍増した大成功した産業である日本のレコード産業について誰も光を当てていなかった
    • 米国では音楽ジャーナリズムの発達があるので、リスナーの耳も肥えている傾向がある。日本の消費者(音楽リスナー)のリテラシーを高める必要があると思った
    • 日本の音楽ジャーナリズムはゼロに等しい。印象批評がほとんどであり、読むに値する記事が少ない。当事者から話を聞くスタイルが無いに等しい。レコードの音にしか興味が無いように思える
    • J-POPはあくまで観察対象であり、ジャーナリズムの対象。好きな音楽やミュージシャンはもちろんあるが、J-POPそのものに対する愛着は無い→数字を見つめることにつながった
    • ジャーナリズムにおいては記者の趣味や嗜好性が見えないことが、記事の「信憑性」を高める


  • 民事訴訟について
    • オリコンに訴えられ、5000万円請求されているが、民事訴訟には応訴する(裁判で争うと裁判所に意思を伝える)義務があり、期限内に応訴しないと、請求額をすべて払う義務が生じる。
    • 応訴するのに最低必要な費用=719万円(219万円...弁護士費用、500万円...勝訴した場合の弁護士に対する報酬...原告請求額の10パーセント)
    • 訴訟権の濫用...訴訟そのものの正当性について
  • オリコン裁判について
    • 2007年2月開廷予定
    • サイゾー』発行元(インフォバーン)でなく、なぜ個人を訴えたか→口をふさぐため
    • サイゾー』編集部の電話取材の発言をもとに、被取材者が訴えられた→この裁判で原告が勝訴すると「報道の自由」が成立しなくなる
    • 産業構造としてのJ-POPを分かりやすく説いている人物を「見せしめ」にしたのではないか
  • 記名性と匿名性について
    • ネットの匿名性がシステムの透明性を加速したが、匿名記事は引用できないし、取材できない
    • 記名性はプロとして必要なこと
    • 本来の「言論」は「反論」と「検証」ができないといけない→ハンドルだと「言論」扱いできない
    • 「議論は匿名でできる」というテーゼ←プロバイダ法の成立などで、ネットが完全な匿名言論空間でないことが自明になりつつある
    • 責任の取れない発言には価値がない/訴えられるのも仕事のうち
    • これからは個人ブログが狙われる→日本の法曹人口の増加は確実。法曹界では名誉毀損訴訟がおいしいビジネスであるという認識が広まりつつある(訴えるのに費用がほとんどかからないのも魅力的・請求額は適当に決められる)ネットの普及で明らかになった個人の発言力を叩いておけ、という政府の思惑もありそうだ
    • マスメディアのパワーシフトが確実に進行している。特に紙メディアの衰退が顕著。
  • オリコンとJ-POPの問題
    • 1968年以来、日本のヒットチャートおよび店頭調査はオリコンが独占していたが、1994年サウンドスキャン社の参入により、オリコンのデータを比較検討できるようになった
    • オリコンの公表している数字は出荷数(実売とイコールでない)→出荷数と実売との掛け合わせによる独自の集計を行っており、その部分が不透明
    • サウンドスキャンの公表している数字は実売数(POSデータを元にしているので、レジを通過した商品でないとカウントされない)
    • 返品(可能)枠...レコード会社ごとに決まっている
    • オリコン、レコード会社、店舗の三位一体でチャート操作は可能
    • 調査方法の明示は統計学の基礎...データ信頼性の担保ができない
    • オリコンは店頭調査の対象店舗を公開しているが、上記の調査方法の明示がなければ、調査対象を恣意的に変更することも可能
  • インターネット時代の問題
    • 誰もがシステム(企業、官庁etc)にその透明性を開示していく要求が行うことができるようになった
    • 誰もがマスメディアを手にしているといってもよい環境では、思ってもいないのに生じうる被害、デメリットがある。それにたいするアナウンスメントや教育が行われておらず、ユーザにリテラシーが無い
    • 訴えられないための、教育、啓蒙が必要
    • 発言する/発信することに対するリスクを負う必要がある
    • 実証する為に裏を取る必要