映画美学校/音楽美学講座/クリティック&ヒストリーコース/第11回講義@京橋・映画美学校



講師:大谷能生
本日のテーマ:1960年代の黒人音楽、20世紀の現代音楽

  • 1960年代の音楽作品:音源が膨大、音楽批評も肥大化し、聴き方の多様性が生まれた
  • セールスが10倍:LPのフォーマットとしての魅力
    • 再生可能なデバイスがLPくらいしかなかった→音楽が所有可能になった
    • cf. 映画のフィルムは個人消費できない。もし映画がサイレントのままだったらどんなメディアにな ったか
    • オーディオの普及:体験の共有化、耳の汎用化(L/R)により音楽を個人的に受け止めることが可能に なった(大谷説)
    • 「音」を聴く...音楽として「音」を聴く方法が爆発的に拡大した/絵画や他の分野でもイノベーションが起こった
    • cf. BjorkはDVDでしか作品を出さなくなった。なぜだろうか。
  • 1960年代の黒人音楽
  • John Coltrane / Afro Blue (アルバム『Live In Japan』1966年より)
    • 構成:ts×2、p×1、d×1、b×1
    • 技法:モード技法を採用し、8小節のテーマを延々と演奏する「今、ここにある」音楽
    • 特徴1:音楽の抽象化が推し進められ、「黒人音楽」から変質した音楽が生まれた。演奏時間が長く なり、アドリブの発展が見られるようになった。
    • 特徴2:ルールが減少し、ミュージシャンへのフォーカシングが起こった。何度も聞き返すことで分 析可能な音楽が生まれた。
    • cf. Miles Davis / kind of Blue (Columbia, 1959)
    • cf. John Coltrane / My Favorite Things(アルバム『Selflessness』1963年より)
    • cf. ファラオ・サンダースの記譜不可能な演奏(1960年代から70年代にかけて)
  • Albert Ayler / Ghost(アルバム『Spiritual Unity』1964年より)
    • 技法:息を強く保ち吐き切る(チェロのボーイングのように)→音が悪い(分離しない)
    • 特徴:再現性を考えない音楽(但し、録音されているので何度も聞ける)
    • 特徴:ループしない、音の延び縮み感(ドラッグによる知覚の変化を再現?)
  • Albert Ayler / New Ghost
    • シリアスなリスナーには完全に黙殺された
    • パフォーマンス(演奏)がアート(作品)になるというアイデア
    • ポップミュージックからの発想
    • 譜面での再現性を否定
  • ミュージシャンシップ:「批評家」に理解されないものを作ろう→批評家が追いつく(いたちごっこ )
  • 回収されてしまう「物語」性を破壊せよ(中上健次
  • わけのわからないものが幻想を生みやすい
  • 作者/作品の切断/接合の問題
  • LP:ポップスで作る「世界」、よく分からないものを定着させてしまうレコードというメディア
  • ポピュラリティ(大衆性):聞き手を歩み寄らせるちから
  • アレクス・ワイルダーの『アメリカン・ポピュラー・ソングス』
  • 聴き手に余白(創造の余地)を残す
  • 誤解が生まれる余地とマーケティング(懐が狭い)
  • 60年代と現代は繋がっている(自発的な音楽/アドリブ)
  • 20世紀のモダン・クラシック

12音技法(シェーンベルク)→セリエリズム(音列技法・ウェーベルン)→トータル・セリエリズム→電子音楽シュトックハウゼン
↓↑                                            ↓↑
新古典派ギリシャローマの復興 ストラヴィンスキーなど)   具体音楽(ミュジーク・コンクレートシェフェール)→ミュジーク・アネクドーツ(リュック・フェラーリ
                  

  • ワグナー、マーラー:主題の変奏(themes and variations)の限界
  • ケージ:時間的な構造が音楽構造の礎である。楽音がサイレンスであれば、それが時間構造に乗り込む(ex.4分33秒
  • 音楽の様式と発展
    • 計算で作れる(記譜可能な)音楽=12音技法
    • 人間の理性を代表するのが音楽である
    • 汎ヨーロッパ的知性の獲得の為の手段
    • 電子音楽=サイン派(主音のみ、倍音無し)
    • 正弦波発生装置
    • 純粋な「音」...還元可能な「音」
    • テープ作業は面倒くさい→譜面への回帰
    • 諸井誠、黛敏郎「7のバリエーション」
    • ユリイカ 特集 解体する音楽 (1997年)
    • 記憶の参照/分類する欲望
  • シェフェール / 鉄道のエチュード (2'50")
    • 「鉄道の音」を録音したレコードを物理的に切り張り=分節化し、抽象的な構造を発見し、それに従って作曲する
    • 現実音(具体音)とそのイメージの結びつきを解体する目的で制作したが、サウンド・コラージュとして誤解されがち
  • 積極的な読み替え
  • 本質論
  • 漫然と聴かない
  • 1960年代に発表された音楽はその後30年をかけて、洗練されたり、再構築された
  • ステージの生演奏主体の音楽から、LPの普及により音楽の叙述が可能となり、録音芸術としての音楽が誕生した