武富健治 / 鈴木先生 (1〜3巻、双葉社)

鈴木先生 (1) (ACTION COMICS)



 誰かの人生にあれこれ口出しするなんてばかげたことだ。他人にいろいろと指図する機会を窺っている政治家のような連中の自信を私は不思議に思うことが良くある。
 わたしはひとに何か助言するのが得意でない。自分の事さえ知らないのに、どうこうしてみろと言える訳がない。私は自分についてさえ、ほとんど分からない。他人については推測できるだけだ。わたしたちはみな監獄に閉じ込められた囚人のようなものだ。その囚人達と言葉を用いて話をしようとするのが人間というものだ。そして言葉というもの、はひとそれぞれによって全く違う意味をもっているのだ。ひとは生きていく。しかし、人生は一度きりで、しばしば取り返しのつかない過ちを犯すことがある。「このように生きるべきだ」と他人にいえる私とはいったい何者なのか。

 サマセット・モーム『幸福な男』より・拙訳

 鈴木先生はなかなかモーム的らしい。ある意味跳んでいて「ギャグ」にすら思えるシーンのあるマンガ。自意識系マンガの傑作でしょう。
 これもやっぱりポストエヴァな作品だなあ、とは言えると思うんだけど、エヴァ以前にエヴァ的な創作物はたくさんある訳で、なんでもエヴァエヴァ言うのは自戒しようと思った(最近、数年ぶりにエヴァのテレビシリーズを見返したのです)。