手塚治虫 / 流星王子 (講談社手塚治虫漫画全集・併録『おお!われら三人』)

流星王子 (手塚治虫漫画全集)


 表題の「流星王子」は昭和30年〜31年にかけて月刊雑誌『中学生の友』(小学館)に連載された。以下、素性をひたすら隠す主人公の天草鉄太郎と、ヒロインつや子の会話。


「あら?この写真は」
「ぼくの両親さ」
「まあ!はじめまして」
「昭和二十八年 スラバヤにて(写真を見て) 南方に抑留されていらっしゃったの?」
「あらごめんなさい あなたのおうちのことお聞きしない約束だったわね」
「ううんいいんだ 今夜はぼくから話してあげよう 近いうちぼくも国へ帰るし…」
「ぼくは終戦の四年前 スラバヤに生まれたんだ おとうさんは日本の報道班員でおかあさんは…」


p.43より
 鉄太郎は昭和16年生まれということになるから、連載当時の年齢設定としては14〜15歳だ。読者の対象年齢に合わせてキャラクター造型を行い、感情移入しやすくしているのだろう。この鉄太郎が、悪い大人たちをぎゃふんと言わせる…、悪党たちは「ある人物からたのまれて国鉄の惨事をつぎつぎにおこしている真犯人」(p.29)で…まあネタばれになってしまうので、これ以上はつまびらかにしないのだけど、戦後10年目の年に描かれた少年漫画に戦後民主主義の理想が、ストレートに映じられているのだ。
昭和3年生まれの手塚は、当時27歳。トキワ荘を出るか出ないかといった頃の凡作ではあるが、なんとも言えず気に入っている。昭和30年代の手塚の丸っこい描線がなんとも言えず魅力的だからかもしれない。