ゴンサロ・ルバルカバ@すみだトリフォニーホール



友人に誘われて当日足を運ぶことにした。ゴンサロは、キューバ出身のピアニストで、ディジー・ガレスピーに見出されて、欧州でデビュー。その後合衆国政府の特例措置で、米国内に居住している。聴いたことがなかったので、アフロ・キューバンな手数の多い情熱的なピアノかな、と思いつつあまり期待しないで行ってみたが、すっかり予想を覆された。


18時過ぎから第一部開演。会場は約1000人収容可能な大ホールで、6割5分くらいしか客が入っておらず、少々さびしい感じ。ゴンサロ氏が鍵盤に向かった瞬間、二階席からも彼の手が大きいことが良く分かった(厳密に言うと、指が長い)。第一部は、和声感覚にクラシック(ドビュッシー、ラベル以降のフランス印象派的なもの)を感じさせる繊細な不協和音を生かした演奏。ペダリングが、絶妙なタイミングかつ上品に行われて感嘆する。観客の多くにはほとんど分からない、発された音が完全に減衰しきったところで一瞬に踏みこむ感じが実にエレガント!これはクラシックマナーかな、とも思う。しかし、サウンドがあまりに美しすぎてたびたびうとうとした。


休暇20分を挟んだあと、第二部。洗練された不完全終止感を音楽が前進する力に変えて、ドライブする即興性の高い演奏が続く。それが聞かせられるのも、彼の極めて高い演奏能力=音楽をコントロールするスキルによるものだ。


演奏曲のカタルシスは必ず回避されるが(分りやすい終止感が確実に排除されている)、ほろ苦く透き通ったピアニズムとでも言えそうな、音へのフェティシズムに溢れたエンディングが必ずあり、その度になんとも言えない快感が襲う。音色の変化に伴い、演奏を終わらせる意志がビンビン伝わってくるのだが、さすがに客席は戸惑いを隠せない感じで、確実に拍手が1.5拍くらい遅れた。アンコール3曲目で、ゴンサロ氏の集中力が途切れた感じをはっきり感じたので退出。その後にも1曲演奏したらしい。


ほとんど「現代音楽」的なサウンドといっていいもので、誰にでも進められるわけではないが、今年観たライブの中で、特筆すべき素晴らしさだった。