弘前劇場『檸檬/蜜柑』@下北沢ザ・スズナリ



 演出家がきっと父(ことし還暦)と同世代かいくらか若い方なのだろうと確信して観ていた。同時に別々の会話がひとつの舞台上で生起したり収束していくのが最初のうちは興味深かったが、やがてもどかしくて仕方なくなった。今にも劇場を飛び出して脚本を読みたくなったし、生身の人間がわざとらしいセリフを言うのを聞くのは時間が経つごとに退屈になった。田舎のインテリ風味で癒されたのは確かだ。素朴な知性といってもいい。ラストシーンのうどんはよかった。食べることで活力を取り戻すという生に根付いた感じを。わたしは否定できない(うどん好きだし)。狂言回しの八百屋のおかみはちょっとわざとらしくてしらけたが、悪くなかった。というのも昨年の春に青森の友人の家を訪ねて、友人の父が言うことがさっぱりわからなかったことが思い出されたからである。弘前の桜はしずかに美しかった。
 わたしはふだん芝居を観ないから、いまどきの芝居の身体論とか芝居の演技論とか芝居の批評とかそういった文脈を解さない。だからこの感想は活字中毒者の感想である。