岡田利規 / わたしたちに許された特別な時間の終わり (新潮社)

わたしたちに許された特別な時間の終わり


充実したセックスがもたらす、時間が心地よくよどむ感覚を緻密かつリアルに描いている表題作であると同時に、この作品のテーマは、時間に尽きるのだろう。時間があることによってもたらされる、物事の推移、人間のからだの動き(きびすを返す、肩で風を切るetc)、感情の行きつ戻りつする感じが、時間という主題に収斂されていく感も受けるが、しかし、どうも風通しがよい。かるみのある物語の面白さと同時に、深い思索が示唆される具合が好ましい。また、文体の独創性からつむがれる、孤独の空気がくせになりそうだ。作者の今後の作品も読まずにはいられない確信を得た。



最初はずっと休みなく何回も連続でして、それでも全然向こうも大丈夫そうだったから、だったら、みたいな感じでひたすらにというか、結構これすごいペースだよねという勢いで、とにかくまっしぐらに、みたいな感じで私たちは繰り返した。そのうち、さすがに彼のほうが疲れてきて、やがて寝てしまったので、私も―置いていかれたよと思ったから、というわけではないけど―じゃあ寝るか、と思って、寝た。二人のどちらにとっても平等に、たぶん二時間くらいが経過した。でもそれは、経ってみるとあっという間のことだった。彼のほうが目を覚まして、また私の体を触り始めた、それで私も起きてしまう。私も繰り返して、お互いを触り合っているうちに、ハイまた次、みたいになった。私たちはそのときはまだ、延々とこれを繰り返すつもりだったのだと思う。そして実際―延々、というほどではなkったけれど―三回か四回か五回か、私たちは繰り返した。いつの間にか私たちには、時間という感覚から遠ざかるようなあの感じが訪れていた―時間がわたしたちのことを、常に先に先に送り出していって、もう少しだけゆっくりしていたいと思っても聞き入れてくれないから、普段の私たちは基本的にはもうそれをすっかりあきらめてるところのもの、それが特別に今だけ許されている気がするときのあの感覚だ―それが体の中に少しずつ、あるいはいつのまにか、やってきていた。

本文p.53