小熊英二 / 日本人の境界(新曜社)

「日本人」の境界―沖縄・アイヌ・台湾・朝鮮 植民地支配から復帰運動まで


日本知識人による自治主義への誤解が象徴するように、時代がしばしば理性とほとんど無縁に進むことが、めまいと共に読み手の臓腑にしみじみとたたき込まれてくる。大日本帝国の植民地政策は官僚の既得権争いに終始しており、二枚舌どころか三枚舌、四枚舌の俗物も多く、権力志向の人間存在そのものに嫌気がさしてくるのは否めない。そこが著者の意図とは別に本書がとても文学的に捉え得る歴史書たるゆえんである。