指揮:ラドミル・エリシュカ、演奏:NHK交響楽団 / スメタナ:わが祖国@渋谷NHKホール



5年前の秋にNHK-FM「シンフォニーコンサート」の公開録音が、狭山市制50周年記念行事として開催された。わたしは当時狭山に住んでおり、市の広報でこの催事を偶然知った。ハガキで応募したら当選したので、市民会館まで観にいったのだった(感想→http://d.hatena.ne.jp/20041121#1/)。この時わたしはチェコから初来日したという指揮者のラドミル・エリシュカにすっかり魅了されてしまった。特にワグナーとヤナーチェクが良かった。最近ウェブで調べたところ、ラドミル氏はいつの間にか札幌交響楽団の客演指揮者に就任しておられた。札幌と大阪でドヴォルザークなどを振ったらしいがこれも好評だったようで、昨年の夏にはライブアルバムも出している。収録曲はドヴォルザーク交響曲第6番とヤナーチェクの狂詩曲「タラス・ブーリバ」のカップリングでマイナーレーベル(pastier)からのリリースということもあってか店頭ではあまり見掛けることもなかった。今回はN響定期公演でタクトを振るということで、せっかくの機会を逃さぬよう足を運んだ。演目はチェコの国民的作曲家として名高いスメタナ交響詩『わが祖国』である。全6曲のうち、第2曲が「モルダウ」(ブルタヴァ)で、単独でもよく演奏されるし、本邦では合唱曲として編曲もされて人気がある。キャンプファイヤーの曲「遠き山に日は落ちて」(ドヴォルザーク交響曲第9番第2楽章主題を元にした歌曲)や「埴生の宿」(英国人ヘンリー・ビショップによる『ミラノの乙女』主題を元にした歌曲)と同様にあまりに人口に膾炙しているためか、多くの日本人が外国曲と意識せずに触れている気がする。小学生や中学生の頃、音楽の授業でレコードを聴いた覚えのあるかたも多いだろう。それにしてもNHKホールのマイキングを観たが面白かった。ステージの前方天井から計9個ほどマイクが吊るされており、あれはどうやって吊るすんだろうと疑問が解けないままである。


交響詩『わが祖国』は作風としては質実剛健ロマン主義で、そう逸脱や実験があるわけでもない。構造的にはそう刺激的なわけでもないのであまり期待していなかったのだが、ラドミル氏がこの曲をどうやって料理するかはとても興味があった。わたしの期待は音楽によって1.2倍に増量されて応えられた。楽曲のダイナミクスを繊細にコントロールし、無意味に情緒過多にもならないすっきりとした滋味としなやかさを湛えた力強い演奏に耳からポロポロとうろこが落ちた。特に木管楽器のアンサンブルとチェロやコントラバスによる中低音のフレージングにはしびれた。バイオリンの響きが美しくてしばしば眠ってしまうくらいリラックスしたのも特筆すべきだろう。それにしてもラドミル氏の品の良さと人の良さを感じさせるキャラクターと、とてもシンプルで無駄のない簡潔な指揮法はとても魅力的で、わたしは数えるほどしかクラシックは生で観ていないのだが、ちとしばらく可能な限り追いかけてみたい。といっても氏は1931年生まれ御歳78歳なので、いつ引退しても不思議がないが…。演奏の模様は抜粋して来る3月1日(日曜日・教育テレビ・21:00-22:00)にN響アワーで放送される。