中島ノブユキ / メランコリア

メランコリア


 中島ノブユキのアルバムはいつもするめのようだ。聴けば聴くほど、するめをゆっくり噛みしめていくときのような味わいがあり続ける。『エテパルマ』も『パッサカイユ』もそうであり続けている。その味わいは、とても紳士的だ。そしてどこか、とても、おそろしい。おそろしいするめアルバムばかりだ。
 紳士はなぜ紳士として振舞うのか、自分のなかに野獣を飼っているからだ、というような喩えは陳腐で、音楽そのものにも、野獣にも、中島さんにも失礼だということは分かっている。けれども、たとえば親しい友人で、中島さんの音楽をまったく知らない人にその魅力をどうやって伝えようかと思案するとき、わたしは獣性を訓致するコンダクターとして『メランコリア』を薦めるかもしれない。氏の音楽に耳をかたむければかたむけるほど、深い安らぎにしなやかな集中力がかかわっていることが得心される。『メランコリア』は静謐さのうちにそれをおしえてくれる。そこには複層する芯があるのだろう。芯があるからこそほぐすことができる音楽がうれしい。ありがとう、中島さん。