耳で楽しむ 藤子・F・不二雄の世界(20:05-21:30、但し10分間のニュースを含む・NHK第一)

 夜、居間で、食事のあと、8時5分からラジオを聴く。NHK第1で敬愛する藤子・F・不二雄先生のマンガの朗読劇(ラジオドラマに近いもの)『耳で楽しむ 藤子・F・不二雄の世界』が放送されたのだ。演目は『カンビュセスの籖』と『間引き』。共に名作である。ぼくは特に前者のできが素晴らしいと感じた。シナリオの構成にも感心したし、原作のエステルのミステリアスなキャラクターに、中條誠子島本須美(声優・ナウシカ役であまりにも有名)の気品のある声がぴったり合っていた。それに劇の進行に合わせた控えめなピアノ演奏も良かった。

 いっしょにラジオを聴いていた母が、『カンビュセスの籖』を読んでみたいと言うので、書架から藤子不二雄ランドVol.296を取り出して、母に渡す。今、その巻数をチェックして分かったが、『カンビュセスの籖』が収録されている異色SF短篇3『一千年後の再会』は藤子不二雄ランドの後期の配本だったようだ。比較的、他の版でも手に入れやすかったから配本が遅くなったのだろう。

 ラジオ番組は特に奇をてらわないまっとうな作りであった。藤子マンガの大ファンである作家の瀬名秀明NHK富山の女性アナウンサーの対談形式で大枠が作られており、朗読劇の間にはヒップホップグループのライムスター・宇多丸と漫画家のとり・みき先生のコメントも入っていて、なかなか豪華。NHK制作陣の気合いの入り用はムダなく構成された番組から存分に感じられたし、瀬名さんとNHKアナの対談(といってもアナウンサーは聞き手)もなかなか聞き応えがあった。ぜひ続編を、と思うので、NHKにリクエストハガキでも送ってみようか。こういう時にケチってはいけない。無料のメールより、50円のハガキのほうが、相手の感動が伝わるのだ。

 それはさておき、ぼくは友人の藤子不二雄研究家である稲垣さん(仮面さん/koikesan)のブログで予め3つの作品が富山県高岡市の会場で収録されたことを知っていた。今回放送された『カンビュセスの籖』、『間引き』、それに『おれ、夕子』である。『おれ、夕子』はおそらく放送時間の都合上、放送が見送られたのだろうが、これもぜひ聴いてみたい。ブログで稲垣さんが指摘(http://d.hatena.ne.jp/koikesan/20130702)されていたように、漫画には音という表現要素が無い。朗読劇は「マンガ表現が有していない聴覚性を際立たせるという方法で、マンガ作品を再話している」のだが、なかなか見事な試みだった。