柳父章『翻訳語成立事情』読了



めっぽうおもしろかった。西洋のことばが日本語に訳されるとき、常に生じることになった意味のズレを丁寧に解説している。
とりあげられている語は「社会」「個人」「近代」「美」「恋愛」「存在」「自然」「権利」「自由」「彼、彼女」。
抽象的な概念にかんしては、とくに理解にズレが生じやすいのだなーとよくわかった。
(とりあげられている語はすべて、かなり抽象的な概念だ。たしかに「電話」と「Telephone」の間の意味のズレを比べてもしかたがないよな)


読んでいてしびれたところをちょっと引いてみる。


「ことばがこうして、いいとか、悪いとか価値づけされて受けとめられている、ということは、ことばが、人間の道具として使いこなされているのではなく、
逆に、何らかの意味で、ことばが人間を支配している、ということを示している、と考える。「近代」が「混乱」であり「地獄」であると思い込むものは、
「近代」と名のつくものを、考えるよりも前に、まず憎むであろう。他方「非常に偉い」ように感じている者は、冷静に見てみるよりも、まずあこがれるであろう。


人がことばを、憎んだり、あこがれたりしているとき、人はそのことばを機能として使いこなしてはいない。
逆に、そのことばによって、人は支配され、人がことばに使われている。価値づけして見ている分だけ、人はことばに引きまわされている」(p.46-47)