小谷野敦 / 評論家入門 (平凡社新書)

評論家入門―清貧でもいいから物書きになりたい人に (平凡社新書)


 再読。特に前半は、評論の読み方、日本の評論史について、また評論がどのように定義されるかということについて具に書かれている。本書で一番重要な点は、評論家になる/なろうとするなんて容易なことではない、固い意志がない限りやめたほうが良いということを、繰り返しきっちり述べている点だ。具体例として現在は著名な作家たちが経験した苦渋の時代についても記している。「それじゃあ、入門じゃないだろう。羊頭狗肉だ」という批判もあるだろうが、奇麗事で終わらない案内をするところに作家としての筆者の誠実さがあるのだ。

小谷野敦 / 新編 軟弱者の言い分(ちくま文庫)

新編 軟弱者の言い分 (ちくま文庫)


単行本で2回読んでいるので、読むのはこれが3回目。といっても、単行本とは内容はだいぶ違う。新編は言葉だけでなく、かなり文章が入れ替えられているようだ。「私の新しいディーヴァ・藍川由美」の項で、古関裕而について評価しているのが目に留まった。古関は戦中の軍歌の作曲が多くて、偏見があるのかまともに(再)評価されていないように思う。しかし当時の音源を聞くと(図書館なんかで「軍歌・その他」コーナーなんかに意外においてある)編曲のセンスがとても垢抜けていて、単純に軍歌の作曲家としては片付けられないのは明らかだ。管見では数多いる音楽評論家でも古関について再評価していたのは岸野雄一くらいである(確かINFAS発行『STUDIO VOICE』のJAPANESE COMPOSER特集で記事を書いていた)。これを機会にちょっと古関を聴いてみようかと思う(但し、前述のエッセイではタイトルの通り、歌手の藍川由美に力点が置かれている)。
解説は枡野浩一。筆者の「もてる」基準のハードルが、一般的な「もてる」の理解と比較すると、高いという指摘は的を射ている。