エバンス・チャン監督 / アート・オブ・トイ・ピアノ 〜マーガレット・レン・タンの世界@渋谷アップリンク



シンガポール出身の前衛ピアニスト、マーガレットのピアニズムを、彼女のインタビューや演奏映像、作曲家のジョン・ケージジョージ・クラムとの交流を通じて描く。たいへん面白かったが、映写室がとても暗くて途中で5分くらい眠ってしまった。

速水健朗 / タイアップの歌謡史 (洋泉社新書y)

タイアップの歌謡史 (新書y)


力作だと思うけど(良く調べてある)、非常に誤字が多い。ほんとに多い!突貫作業で校正にほとんど時間をかけていないんではないだろうか。新書のデスクトップ校正は、このご時世だから、洋泉社本体ではなくて十中八九外注だろう。的確な校正は、作者だけにその責を求められるものではないが、結果として賞品の信頼性や魅力を損なうことになるので、気をつけてほしいものだ、編集者が。新書大戦争の時代、1冊1冊にかけられるコストがどんどん削られているんだろうけど。
扶桑社とアスキーが新書業界に参入するらしい。完全に供給過多だと思うし、新書のクォリティもだんだん下がっていくだろう。雑誌が売れずに、新書が雑誌化する傾向があるのかもしれない。
本の感想を書こう。戦前の日本映画と歌謡曲にタイアップのプロトタイプがあるとして本書は始まり、タイアップ作品の歴史を通して音楽文化のみならず、社会/世相の動向も浮かび上がってくる。後半は少々駆け足で、欧米ではいわゆるタイアップが音楽業界で忌避される傾向にあることに触れつつも、スポンサーが無ければ大衆音楽は生まれなかったとしている。欧米では基本的に日本でいうような「タイアップ」が無いとしながらも、クラシック音楽パトロン(王族、貴族)の庇護を元に発展したことを引き合いに出して「王族や貴族が中心の世の中から、民主主義や資本主義が中心となる現代へと移行し、音楽家たちのパトロンはマーケットであり広告業界となった。その両者をつなぐ掛け橋として機能しているのがタイアップという仕組みなのだ」(232p)とまとめている。
本作では比較文化的な展望が示され、日本の音楽産業の特殊性を筆者じしんが指摘しているにもかかわらず、だいぶ大雑把な結論となっていて、座りが悪い。タイアップポップスが日本特有の文化・現象であるということで明確に締めて欲しかった。しりきれとんぼ感が残念ではあるが、おそらく新書1冊ではまとめきれない話であるとも思うし、次の作品を期待したい。