菊地成孔SPEAKS!



 直前まで迷ったのですが、結局行って来ました四谷いーぐる。「菊地成孔SPEAKS!」と題して、今年六月刊行予定の、菊地さん初エッセイ集編集担当の村井康司さんを聞き手に、菊地さんが自作を流しつつ語りまくるという、まあちょっと
マニアックな催しでありました。たいへんおもしろかったです。開場前は、ピロスエさん、組谷さんとお茶を飲んで時間をつぶしつつ、4時過ぎから8時過ぎまでなんと4時間に渡る(休憩も無かった!・笑)トークトークトーク!饒舌!


 ここには書けないこともあるのですが、いちおう書けそうな部分だけ、ちょこっとずつ触れていこうかと思います。


南博GO THERE!:(SWIMの読者だったら多分みな知っているんだろうけど)最新アルバムには「オーセンティックなアコースティックジャズにおいては世界初のプロトゥールス編集」を持ち込んだそうで、そのハウトゥーを子細に説明。大雑把にいうと、クリックを聴きながら、パート別にベース、ドラムス、サックス等をひとりずつ演奏してもらい、それを後から菊地さんが組み合わせる。「つまり結局やってることはリミックスですね」、という話。このアルバムのリミックス版の話もあったのですけれど、それも方法論としては同じような感じだったように思います。


東京ザヴィヌルバッハ:1st『クール・クラスター』の方が、新作よりも「ハードですね」という話。マッキントッシュのMというソフトを利用して、どんな風にサウンドを構築しているか、という話。80年代(現代音楽で)ミニマル・ミュージックをリアルタイムで作る為に開発されたソフトで、四声(たとえばドミソシ)が鳴らせるところを、全部、パーカッション(リズム楽器)とSEに置き換えてやってみたらおもしろかった、ということ。新作『ヴォーグ・アフリカ』では、キューバ人ドラム奏者オラシオ・エルナンデスの力強いドラムスがフィーチュアされていて、1stに比べるとかなりポップで聴きやすくなっていました。この作品も、もちろん編集作業が加えられているということですが、やはり生のドラムスのゆらぎがあるのと、人力のドラムでは即興する速度に限界があるということで、かなり肉体的な香り漂う変体(×変態)フュージョンみたいな感じのサウンド。曲によってもカラーがかなり違うようなので、なかなかおもしろそうです。蛇足としては、ザヴィヌルバッハの名付け親は坪口さんだそうです。お子様ランチ的命名法(笑)。東京+ジョー・ザヴィヌルJ.S.バッハ。好きなものの名前をくっつけたそう。


スパンク・ハッピー:セカンドアルバムは今年中に制作予定だということです。上野洋子さんに歌ってもらったデモテープを浅草ロック座のストリッパー、鈴木くるみさん(菊地さんは大ファンらしいです・笑)に持っていって、断られたという逸話あり。あとは、基本的には『クイック・ジャパン』にも転載された、菊地さんと岩澤瞳の出会いに関して軽くさらった感じ。スパンクスは「ジャズなんですよ」という話で、司会の村井さんも「AORやフィリーソウルを感じる」と返されていました。「ピコピコ鳴ってるからわからないでしょうけど」と、菊地さん。テクノポップにはかなりはまっておられたようで、村井さんの細野好き発言から、「はっぴいえんどなんかは、あんまり好きじゃなくて、YMOのファースト聴いて、これこれ、と思いました」なんて感じ。あとは曲のタイトルからゴダール話など交えつつ。「ぼくは死ぬ前にゴダールになってから死にたい、と思うほど、ゴダール愛ですから(笑)」。


ONJQ高柳昌行の流れを汲む大友良英と、山下洋輔の流れを汲む菊地成孔がいろいろ葛藤ありつつも、お互いに上手く刺激しあっておもしろくなったよ、という感じの話。ヨーロッパのプレスは、サイン波が入ってた頃の、ONKYOっぽい初期のONJQに評価が高いけど、それはあまりにも近代ヨーロッパの史観にとらわれがちなんじゃないか、音楽の歴史も反復してるし、みたいな。


脱近代的な視点(世界中に、ある音楽が伝播するには、物理的にも文化的にも格差が生じるものだ、というテーゼがある。ポップミュージック[例えばジャズでもロックでも]についていえば、その視点は意図せずとも西欧中心の時間軸・文化基準での思考方法や価値判断を導くことになる。しかしそのようなテーゼは貧しいのではないか。世界の諸地域、および国家固有の時間軸、文化基準というものを念頭に置いて考えたほうが、もっと柔軟かつ豊かな視点でものごと[この場合は大衆音楽]を捉えられるのではないか、という考え方)をもっていたほうが、音楽批評の可能性も広がる。


サイン波がらみで、音響と音韻についてのレクチャー(笑)もありましたが、ここらへんは正直ちょっと分からなかった。でも、音響派がシリアスで鬱っぽい音楽だという指摘には非常に頷く感じで。ONJQは今後も変わらずライブを行っていくようです。


DCPRG:質問しちゃいました(笑)。とりあえず、メンバー増員予定はなしで、今年中レコーディング予定。大方の人は予想がつくように思いますが、海外で。詳細は書けないのですが、今年のデートコースは、昨年以上にアクティヴで、かなり期待していていいと思います。P-VINEのサイトには、今後の活動予定は一切未定って書いてあったけど、ちょっとどうかなあと、表現として。てっきり大友さんが抜けて、バンドが活動休止するのかと思ってました(笑)。


菊地さんがデートコースの音源をCDJでいじりながら音楽におけるリズムの持っている可能性(四拍子のリズムを五拍子でとることができたら、その逆もまた可能、みたいな。グルーヴの仕方は無数にあるんだよ、みたいな話)、おそらくポリリズムについての入り口あたりのレクチャーをしていたようです。ポリリズム…なんか懐かしいなあ(笑)。高校時代バスクラで吹いた2拍3連とか思い出すなあ。あれポリリズムだよね(苦笑)。ちょっと脱線してしまいましたが、音楽に今後残された可能性はリズムが占めるところが多くて、そこに焦点をあてて、デートコースとしてはやっていきたいというような感じ。今年は、ハイブラスで
ギル・エヴァンズ・オーケストラでアフロ・ファンクな感じらしいです。ちょっとビッグバンドだよな。うわー、またライブ行かなくっちゃなあ、って感じ(笑)。


菊地ソロ:菊地さんのアコースティックジャズとしてのリーダー作も準備の予定があるそうで、今年から来年にかけては氏のジャズサックス奏者としての活躍にも期待できそうです。SWIMで仰ってたように、だんだんジャズ回帰なのかな。


質疑応答を挟んで、最後に、カヒミ・カリイのニューアルバム『Trapeziste』から1曲聴いて、終了しました(この曲はとんでもなく狂暴な変態ジャズ世界で、凄かった。菊地さん曰く「アート・アンサンブル・オブ・シカゴみたいな感じ」らしいです。ONJQ好きは買うべきでは・笑)。外に出てみたら時計は、8時20分過ぎを差していました。菊地さん、村井さん、参加されたみなさん、お疲れ様でした、って感じです(笑)。でも4時間あっという間だったなあ。たいへん楽しかったです。


で、蛇足までに菊地さんのトークを聴いての雑感。菊地さんって、狂言回しっぽく振舞ってるけど、やっぱりジャズ界きっての理論家なんじゃないかなーというのが大雑把な印象です。大雑把だな(苦笑)。でも決して頭でっかちの理論家じゃなくて一方にはダンスミュージックを志向する快楽主義な部分もずどんとあって、つくづく希有なバランサー(そんな英語あるのか・苦笑)だと思いました。今年の活動も、すべて氏の健康次第だということなので、及ばずながらご健康をお祈りします(笑)。いや、でもずいぶんとお元気そうな感じで、ファンとしては、ちょっと安心しました。