「真夏の夜のジャズ」(バート・スターン、'58年)

観る。これ、'58年のニューポート・ジャズフェスティヴァルを撮った(都合4日間)フィルムを
わずか80分に編集した作品。正直、ボートレースとか、街の風景は要らない。
本当は、もっと長篇にするつもりだったのかな、と思いました。それなら、
雰囲気を伝えるショットというのも必要だと思うけど。でも、まあこの長さ
だったら、ジャズに興味の無い人にもオススメできる長さかもしれません。
あっという間に終わっちゃうから(笑)。いやあ、でも良かった良かった。
こうやって映像付でジャズのライブ映像を観ることってあんまり出来ないし。


セロニアス・モンク。「ブルー・モンク」演ってます。あのつんのめる
ようなヘンテコグルーヴ満載。でもこれがカッコイイんだ。ピアノを弾いて
いるモンクだけのショットがあるんですが、それを見ると、やはり独特の
オーラが出ていてまさしく「孤高の人」って感じ。ベースと、ドラムスも
鳴っているんだけど、もうピアノに添えてるだけという印象が無くも無いです。


アニタ・オデイは、ぼくも白人の女性シンガーの中では割と好きなんですが、
「スウィート・ジョージア・ブラウン」と「ティー・フォー・トゥー」をやっています。
この2曲どちらもカッコイイ。決して彼女は美人じゃないんだけど、ユーモア
たっぷりに高速スキャットを展開するシーンにはなんともいえない色気を
感じます。バンドのメンバーのショットが曲中に挿入されるんだけど、みんな
ニコニコ笑いながら演奏していて、それも凄く良い雰囲気なんだな。


ジェリー・マリガン。早逝しそうな雰囲気漂ってます。彼は長生きだったんだけど。
「アズ・キャッチ・アイ・キャン」。トランペットがカッコイイのだけど、誰だろう?
チェット・ベイカーではないよなー。分かりませんが、とにかくかっこいい。
しかしバリトン・サックスってのはやっぱり、見栄えが悪いですね。
ジェリー・マリガンが持てばカッコイイんだけど、やはりあの大きさが
なんといってもカッコ悪い。まあ、バスクラだってドルフィーが吹けば
カッコイイしな。要は楽器が上手く吹けなきゃダメなんだ(苦笑)。


んで、ここでビック・メイビス・スミスというブルーズのおばちゃんが
登場します。もうへちゃむくれのファットな黒人のおばちゃんなんだけど、
その笑顔が、もうたまらなく良いんだ(笑)。もう嬉しそうに、がなること
がなること。でもねえ、そのやっぱり音楽の楽しさの原点というか、シンプルな
喜びがビンビン感じられて、技巧とかなんたら言うけど、やっぱりこういう
「うた」もいいもんだなあ、と思うのです。その後出てきたチャック・ベリー
いささか場違い感が否めなかったけど(ビーチ・ボーイズがパクったことで
有名な「スウィート・リトル・シクスティーン」をやってるんだけど、パクって
作った「サーフィンUSA」の方がはっきりいってカッコイイですね)、万雷の
拍手を浴びていた。ダンス・ミュージックとしてはやっぱり純粋にお客に
受けるんだろうな、という感じ。キャッチーだもんね、リズムもメロディーも。


白眉はチコ・ハミルトン!中くらいのマレットで呪術的なグルーヴを作りだして
エリック・ドルフィーはフルート吹いてるし、もう、なんちゅうか聴いていると
単純に恍惚感に酔いしれてしまいます。素敵にエロいですよ、とっても。もう
これだけずっと聴いていて、そのまま死んでしまいたい感じになりますね(苦笑)。


で、ルイ・アームストロング。ルイが生演奏をしているのをちゃんと観るのは
初めてなのでやはり昂奮を抑えきれません。彼に対する敬意を表してなのか
なぜかこの短いフィルムの中で3曲も演奏しています。「レイジー・リバー」に
思わず涙。「タイガー・ラグ」は、ジェリー・ロール・モートン作曲の楽しい曲。
〆はやっぱアレですか「聖者の行進」。まあベタだけど、やっぱりサッチモは良いね。


ラストを飾るはマヘリア・ジャクソン。ゴスペルの人ですね。うーんちょっと
へヴィーだなーという感じがしました。まあでもこれは好みの問題だ。観るときの
気分によっても感じ方が違うと思うし。この映画、ジャズという音楽に初めて触れるには
ちょうどイイ感じかもしれないなーと強く思いました。ジャズってこんな感じなのかーと
思えるだろうし。ただ、個人的には物足りなかったです。80分は短すぎるよー。