村上龍『どこにでもある場所とどこにもいないわたし』読了



ごく短い時間を緻密に描写することで、今ある現実の不確かさを感じている人間を描く。
とくに「居酒屋」「公園」の二編は、日本特有の日常空間がもっている閉塞感と、
不安感を描くことに成功している。巻末で村上は、現在海外に留学することは
「閉塞して充実感を得られない日本社会からの戦略的な逃避でなければならない」と
述べているが、それには体力、気力それに金も必要だ。「海外への留学」とは彼が
言う「他人と共有することのできない個別の希望」の具体例だろう。「他人と共有することの
できない個別の希望」の実現にさいしては、やはり体力、気力それに金が必要だからだ。