二本松男二人旅 その3



朝、六時半に目が覚めた。二日で二十時間以上寝たことになり、端的にこれは寝過ぎだといえよう。
朝食をとり、しばらくして十時前頃、父は一人で近所のダムへ向かった。野鳥観察が趣味なのである。
小生もここへ来たその日、一度ダムまで足を運んでみたが、そう沢山鳥がいるようには思えなかった。


しばらく部屋で何をするともなくぼんやりしていたが、偶然BS-2で「あしたのジョー」のアニメを放映していたのでつい見入ってしまった。
スポーツが苦手な小生はスポーツマンガもあまり読んだことがなく、全巻読破したのは、小学生の頃地元の児童館で読んだ水島新司ドカベン」、
中学三年頃に読んだ梶原一騎高森朝雄)とちばてつやあしたのジョー」、今年妹の元彼氏から借りて読んだ井上雄彦スラムダンク」の三作品にすぎない。
あしたのジョー」は滅法おもしろかった。そこには明らかに時代の空気が閉じ込められていたし(ジャンプ系格闘トーナメントマンガには見られない
ストイシズムといっていいだろう)、後にちばのインタビューを読んで、彼が「いまだにサインを求められる時、ジョーを描いてくれというファンが多いのだが、
当時の描線はもう再現することができない」と語っており、妙に得心させられたものである。
アニメは、おそらく映画版ではなく、テレビシリーズのものだと思われ、力石が少年院を出て行き、復帰戦の相手を第一ラウンドでノックアウトした辺りで終わった。
他のチャンネルはどれもインドネシア震源の大地震津波の被害について報じていた。年の暮れに神様も随分残酷なことをするね。


昼過ぎに父が野鳥観察から戻って来たので、宿の近くの食堂でカツ丼を食べた。
一時すぎから四時頃まで、二本松駅の売店で買った村上春樹「若い読者のための短編小説案内」(文春文庫)を部屋で読んだ。風呂の後、六時から夕食。
七時には部屋に戻り、一時間BS1の国際ニュースを。
東〜南アジア地震のことや、サムスンが韓国の輸出額の二割を占めることや、支那とロシヤの軍隊が合同軍事演習をする予定だとか、いろいろ報じられていた。
テレビを消して、村上のそれを読み終えた。実は以前単行本で一読したのだが、今回文庫を再読した。丸谷才一長谷川四郎を読んでみたい。
ちなみに(小谷野敦ではないが)本書で二、三度出て来る村上の「命題」の使い方は、語の本義とずれがあるようだ。