ポール・オースター / リヴァイアサン (柴田元幸訳、新潮社)



主人公がやたら魅力的な女性に出会ってセックスばかりしていたり、生と死が主題となっているところが、村上春樹と似ていなくもないと感じるが、ポールの筆の方がよりハードボイルドだ。つまり、生きることへの倦怠、ままならない人生との格闘が作品全体から滲んでいる。春樹の倦怠はもっとパッシブで、よく言われることだが「喪失感」というやつだと思う。決して「格闘」はしない。むしろブルーな記憶に酔う感じで、それが読者をほっとさせるのかもしれない。ただ以前にも書いたが、春樹の作風は徐々に変化しているので、今後の作品はこれに当たらないかもしれない。


登場人物たちの遠景にベトナム戦争が浮かんでいる。まだ彼の作品は二作しか読んでいないけれども「時代」にわりと意識的な作家なように思った。瑣末な点ではあるが、印象に残ったのは、語り手の位置にいる作家がフーゴ・バルの日記についてのエッセイを書いていて、それが賞賛されるというシーンがあったこと。この架空のエッセイをちょっと読んでみたい。