東谷護 / 進駐軍クラブから歌謡曲へ (みすず書房)



敗戦後、日本に進駐した米軍属を慰安するために国内各地に設けられた「進駐軍クラブ」(1945〜1952年、占領期)が、日本の洋楽受容における転機となったこと、ビッグバンドスタイルの演奏がその後の歌謡曲に及ぼした影響を、各種資料、バンドマン、元駐留軍従業員、当時の斡旋業者らへの貴重なインタビューから考察する音楽研究書。現在成城大学講師の筆者による、京大大学院博士論文がベースになっているが、文章にこなれぬところが窺えるものの、全体的に平易で読みやすい。

かつて横浜にあった下士官クラブ「ゼブラクラブ」の様子など、実に敗戦当時の風俗史としても面白く、ルイ・アームストロング慰問公演時のスナップなど貴重な写真も充実していて、興奮した。巻末の註を見ると、インタビュー後に亡くなっている関係者もあり、有り難みが増す。

言うまでもなく、戦時中はジャズは敵性音楽として演奏が禁じられていたので、帝国陸海軍軍楽隊員も演奏できなかったのだが、敗戦に伴う日本軍の解散によって、彼らがN響に流れたり、進駐軍のラジオ放送を聴いて一生懸命ジャズを学んで行く姿が、復興に向かう戦後日本のエナジーの一側面であるように捉えられ、音楽を通して描かれる日本復興史の趣も感じられた。日本のポップス史においても、ニッチといえばニッチな領域だが、ホリプロナベプロの創業者たちも「進駐軍クラブ」との関係は深い。占領期の日本のポップスに興味のある方は奮ってお読みください。