本田透 / 電波男 (三才ブックス)



 滅法面白く、ユーモラスなエッセイとして、素晴らしいクォリティである。ただ、話を分かりやすく面白くするために、世界がオタクとDQNだけで構成されているかのような塩梅で描き進められているので、その間にいるどっちつかずの人間に、どの程度のインパクトをもたらすのかは定かで無い。ウェブで日記を書いているような人には、彼の自意識の揺れがおおむね面白く感じられると思う。


 恋愛資本主義を駆逐する為の、妄想恋愛主義(脳内で理想の恋人像を育て慈しむことこそ、ひとに最大の安らぎを与えるという考え方)を山車にしていて、半ば本気なのだろうと思うし、ところどころ説得力もあるのだが、やはりきわめて愉快な茶飲み話に過ぎないと思う。その「愉快さ」を全面に押し出している文体は素晴らしいのだが、あとがきで自分が育った劣悪な家庭環境を語り出してしまうのには興ざめした(この点に関してはエキサイトの著者インタビューに詳しい)


 第二章における『電車男』批判は、オタク精神を遺憾なく発揮していて、その熱さ鋭さには読み応えがある。何かしら批判精神をもつ人間にはオタク的心性があるのでは、と読み終えて今更に思った次第。