ビートルズ大学出張講義:ビートルズソング珍カバー・好カバー特集@青山ブックセンター六本木店


「今日は8月1日にアスペクトより発売となりました『ビートルズ大学』。これをおもしろがって頂けました青山ブックセンター六本木店様のご好意で、ビートルズ大学出張講義と相成ったわけですが、今回このトークの模様は店内のスピーカーを通して、店舗内どこにいても聞こえるということです。どなたでも楽しんで頂けるように、ということを念頭において、ビートルズソング珍カバー・好カバースペシャルということで、音源をかけつつお話したいと思います。それでは宜しくお願いいたします」(拍手)


ビック・バンド、ビートル・ソングズ(紙ジャケット仕様)


 まず1曲目はボブ・リーパー『ビック・バンド、ビートル・ソングズ』から「I Saw Her Standing There」のビッグバンド版を。「このアルバムは1964年、かなり早い段階でDeccaからリリースされています。Deccaといえば、ビートルズをオーディションで落としたレーベル。ローリング・ストーンズは、ビートルズの推薦もありDeccaからデビューしました」。


ミート・ザ・ブリティッシュ・ビーツ!


 1969年にリリースされた小山ルミ「抱きしめたい」。「日本語詞です。艶っぽい歌唱が聴きどころですね」。


「Yesterday」のモンドともいってよいほどのヘビメタカバーや、名もないバンドによる初期ビートルズサウンド風カバー「Yesterday」を挟みつつ、作曲者ポール・マッカートニー自身による「Hey, Jude」のおあそびカバー「I, Jude」(ポールが90年代のワールドツアーのリハーサルでふざけてカバーし、その後、自身のラジオ番組で放送された)。


Celebrities Butcher


アラン・コープランドによる「スパイ大作戦のテーマ/ノルウェイの森(Mission: Impossible Theme/Norwegian Wood)」。「いったいどんなつもりでこの2曲を合体させたんでしょう。「ノルウェイの森」が不穏な雰囲気になりますね」(笑い)。「この曲は1968年、グラミー賞(最優秀コンテンポラリー/ポップ・コーラス賞)を受賞しています」。


A LONG VACATION 20th Anniversary Edition


「ポップスには温故知新の系譜というのがありまして、代表的なものには1990年代に、渋谷系なんて呼ばれるムーブメントがあったわけですけれども、渋谷系と呼ばれる音楽も拡散と浸透を終了して、誰も渋谷系と呼ばなくなりました。彼らの音楽の特徴として、偉大なるポップスの先達への敬意を表して、ベースの音であったり、ドラムの音であったり、メロディの一部を引用するということが挙げられますが、その温故知新の、渋谷系の元祖ともいえるのが、大瀧詠一さんです」


「色褪せない名盤『ロング・バケーション』収録の「Fun×4」(Four Times Fun)という曲は、タイトルからしビーチボーイズの曲名(「Fun,Fun,Fun」)へのオマージュなんですが、大瀧さんくらいの音楽の達人となると、引用というのも一筋縄ではいかない」「(曲をかけながら、ギターリフにフォーカスして)この曲、ビートルズ人気にあやかってドナ・リンという歌手が出した『夢見るビートルズ(I Had A Dream I Was A beratle)』というシングルのB面曲、「ビートルズカットのボーイフレンド(My Boyfriend Got A Beatles Haircut)」なんですね。ビートルズへのリスペクトといっても、こんな領域まで大瀧さんは行ってしまうわけですけど」


ビートルズ渋谷系の元祖といっても良いと思います。リトル・リチャードやチャック・ベリーといったロックンロール、当時これは親がいる前では聴くことができず、子供は親が寝静まった真夜中にラジオのロックンロールチャンネルにイヤホンをつけてチューンインしたというんですが、そんなふうに猥雑な音楽として捉えられていたロックンロールを、ビートルズはカバーしたりして、リバイバルさせた。これぞポップスの温故知新の系譜ですね。ビートルズによって、ロックンロールが再び見直されたというところにも注目する価値があると思います」


(音痴なおばさんによるビートルズカバーの紹介が入る。ドイツ語版の「A Hard Day's Night」ほか。場内笑い)
(「抱きしめたい」のヒンズー語カバーの紹介。「インドのポップスのヒットチャート=インド映画の主題歌という世界なのですが、なにかとビートルズと、そして英国とかかわりの深いインド映画でも「抱きしめたい」はカバーされています。YouTubeで観ることができるのですが、YouTubeにアップされているものには、今日ここでおかけする音源の女声がなく、女声のパートを男性が歌っています」)


Sounds of Science


サンプリング時代のビートルズとしてご紹介したいのは、ビースティー・ボーイズの「サウンド・オブ・サイエンス」という曲です。いまやご存知の通りパソコンで自分の好きな楽曲の1小節、いや1音単位、音の粒単位でカット・アンド・ペーストできるようになったのですが、この曲のタイトル、まさに科学テクノロジーによるサウンドですね」「『サージェント・ペッパーズ』から「When I'm 64」できこえる暖かなベースライン、「Surgent Pepper's Lonely Hearts Club Band」のイントロの観客のざわめきと楽器のチューニング音、それからビートルズが最後に発表するつもりだった『Abbey Road』のラスト・トラック「ジ・エンド」のジョージ→ポール→ジョン(たぶん)で回すギターソロをうまく引用しています」


Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band


Abbey Road

ビートルズの楽曲は今日ご紹介したようなものを、もちろん知らなくても楽しめることはいうまでもありません。ただ、(トークライブイベントとしての)「ビートルズ大学」で、わたしがいつも言っていることなのですが、知らなくてもよいことを知っていたら人生が豊かなものになるんじゃないか、という思いでこういったトークライブをやっています。
 インターネットの時代ですから、ビートルズについてアクセス可能な情報はいくらでもあります。でも情報は道具にすぎない。もはや情報の量というのは問題ではない。得た情報をどうやって編集していくか。そして、その情報から得た知識によって、どれだけ物事を楽しめるか、賞味できるか、というところに焦点を置いています。だから、これはビートルズの話だけでなくて、森羅万象、あらゆる物事について言えることです。森羅万象をことごとく賞味せよ、ということです。ビートルズに始まって、ビートルズに終わるわけではありません。
 ふだんはわたしのビートルズコレクションからレアな映像や音源中心に「ビートルズ大学」というトークライブをやっていますが、トークライブではできないことを本にしました。ぜひ楽しんでもらえれば、興味を持っていただければ、と思います。イベントとしての「ビートルズ大学」は次回10月2日、新宿のネイキッドロフトで、元『ミュージックライフ』編集長の星加ルミ子さんをお迎えして、ビートルズ最後の全米ツアーを検証します。ビートルズのラストツアーに同行取材された星加さんに当時の思い出をたっぷり聞いてしまいます。よろしければ、ぜひお越し下さい。それでは、ご静聴ありがとうございました」(拍手)


※聴講時のメモを元にトーク内容を再構成している為、実際の内容とは異なる点があります。ご容赦下さい。文責:ウツボ