荻上直子監督 / かもめ食堂

かもめ食堂 [DVD]


反復を主軸としたドラマの展開が、ひそやかなおもしろさを導いている。自主制作映画や実験的な芝居っぽいマイナー感がミニマリズムによって生まれてしまうのだが、そこはヘルシンキという異国の街を舞台に用いることと、自然光を生かしたライティングによって打ち消されている。多少眠気を催すが、90分ちょっとの尺も腹八分目な感じで、ちょうど良い。くすくす笑って眺めていると、やがてスタッフロールで井上陽水が歌い始めるだろう。

さりげない/意味のない会話の繰り返しは小津安二郎の影響を強く感じた。簡単に言うと「語らない」ことで、実はわたしたちは「語り合える」ということ。「迷い」や「喪失」は常に語られず、その周縁を繰り返す言葉の数々が埋めていく。生に悩むひとびとは、食の席をくりかえし同じくすることで少しずつ打ち解け、それぞれ生きる希望を見出していく。その希望が「希望」ということばでは強すぎるくらいの感じで、トンネルの向こうにほのかに出口が垣間見えそう、というような示唆的な雰囲気で終わるところも良い。

非常に同時代的な感覚だなあ、と思ったら、監督は今年弱冠35歳、なるほど、という感じ。30代前半から40歳くらいの監督だろうな、というのは、見ていて分かった。「食べること」や「さりげない会話」の「喪失」を感じるジェネレーションはやはりある程度の若さがあるような気がしたからだ。ある程度の年齢の人々になると、これらは「当たり前」で身体化された振る舞いに入る。身体化されていれば「問題」として現れにくいので、このように「物語」として語る必要性は低くなるだろう。小林聡美の料理シーンの手際良さや、品良くかわいらしい衣装も「女子」には見所だ。