総監督:富野由悠季 / 劇場版機動戦士Zガンダム(全3作)

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一度観ただけでは、まとまりがつきそうにないが、思った順に記していこう。端的に言うと、駄作。テレビ版の緊張感と、物語のふくらみ(群像劇としての側面)が矮小化されている。どうしたって50話(1話20分としても16時間以上)ある話を5時間程度でまとめるのは難しいのだろうけど。まず、テレビ版に漠然と漂っていた母性への憧憬と女性嫌悪アンビバレントな感じが目立たなくなっていたようだ。富野監督が老境に入ったことと関係しているのだろうか。


構成としては、第1作はともかく、第2作・第3作はテレビ版のZガンダムを観ていない一見さんは完全お断りの叙述である。ガンダムは結局オタク市場向けの作品だから、仕方が無い。重要人物であったフォウ・ムラサメの存在感が小さくなり、サラ、レコアなど脇役女性の存在感が俄然増している。これはかつてのアチャーな物語を否定する上で必要だったのだろうが、物語の芯が細くなって、戦場における漠然とした状況論的な描写が多くなった印象を受ける。ただし"まとも"な物語感は増している(フォウの「記憶」に対する妄想的な執着や情緒不安定なカミーユの暴走がないのと、戦場における"まとも"な女性たちの心のありようがおおむね丁寧に描かれているため)。ハマーン・カーンもやや落ち着いた造形がされている。


魅力的とはいわずとも、個性的な男性キャラについては不満が残る。ジェリドの象徴する無謀な野望家としての側面はいっさいカットされており、凡庸な敵役に落ちぶれているし、ヘンケンはエマへの思いをそこそこ伝えられる大人の男になっているし、カツの若さゆえの独善的な振舞いも抑制されている。これらは監督を代表するスタッフ陣とリアルタイムファンの加齢に伴う作品の"老化"にあわせての演出の変化とも考えられる。男性キャラはいわずもがな主人公のカミーユも含めて全体的に社会性とコミュニケーション能力を向上させている。ひとことでいえば大人になった。


作画面では予算の都合だろうが、全面的に描きなおすべきであったろう。旧作流用分と新作カットの違和感がぬぐえない。そのぶん編集のがんばりは感じるが。声優陣では重要キャラのフォウとサラを交代させてしまったことが、オリジナルを愛好するファンには致命的な失敗に思えるだろう。どんな作品にも瑕疵がないことなどありえないから、仕方がないか。Gacktによる主題歌などは歌詞分析などをしていないので物語との適合性はなんともいえないが、おおむねどうでもいい。


結論。富野監督の老化による"まとも”なZガンダムは退屈なものだ。部分部分取り出してみれば目に付くところもあるが、後進の庵野監督『エヴァンゲリオン』が代表するような内省的な作品群がもてはやされる昨今のアニメ業界への凡庸な批判のようにも思えた。しかしそれだけガンダム以後、青少年に対するアニメの影響が大きかったと富野監督は反省しているのだろう。そこまでアニメに社会的影響があったかどうかわたしは疑問だが、心血注いで作品作りに従事した作者としては複雑極まる心持があるであろうことは想像に難くない。既存の革命的な作品を修正して、別の趣のある作品をつくりだしたということは評価すべきなのかもしれないが、いまは、昔血気盛んでいささか問題のあった男が老境に入り、説教臭くなっただけに過ぎないような気がしている。むろん監督が年寄りの役割を意識的に演じている可能性が十分あるが、あのラストシーンには苦笑を禁じえなかった。ただ、わたしが老境に入ってからこの作品を観返したら、異なった感想を抱くのかもしれない。ひとはだれも歳を取り、例外はないのだから。