コンピレーション:ジャズと戦争 〜1940年代スウィングの魅力 (Swing -Jazz and the War Years)


  • 選曲者前口上



 音楽家・批評家の大谷能生氏が「音楽史におけるディケイド(10年単位)での分析には以前から疑念を持っており、ハーフ・ディケイド(5年単位)でその変化を捉えたほうがより正確に微細な点まで理解できるのではないか」ということを以前口にされていた。2000年代初頭から、氏の一ファンであるわたしにとっては、それが彼の著作でつまびらかにされたことであったか、あるいはラジオ番組での発言であったか、映画美学校での講義のなかであったか忘れてしまった。しかし、その仮説はとても印象的であり、それをもとに、自分が10代の時分から取り憑かれたように聴いてきたジャズを捉えなおしたいという気持ちがここ数年ずっとわだかまっていた。


 1980年(昭和55年)生まれのわたしがジャズに耽溺するきっかけになったのは1994年(平成6年)にビル・エヴァンズの『Waltz for Debby』(1961年/昭和36年)を聴いて恍惚としたことと、高校時代に加入したブラスバンドで浴びるようにスウィング・ジャズを聴き、演奏し、エリック・ドルフィーの『Live at the Five Spot 1』(1961年/昭和36年)に音楽の自由さを深く感じたことがきっかけだ。しかしながら、モダン・ジャズも聴いてはきたが、夢見るように美しく端正で、弾けるような音楽の若さを湛えているスウィングのはらむ、ある種の退廃にずっと魅了されてきた。その退廃が何によるものなのかというのはずっと分からなかったのだが、戦争というキーワードがここ数年浮かんでは消え、浮かんでは消えしていた。


 スウィングが隆盛を極め、爛熟していった1940年代は、人類史上二回目の世界大戦があった時代である。アジアでは1937年(昭和12年)7月に日本軍が国民革命軍と衝突し盧溝橋事件が起き、日支間では戦争状態が続いていた。一方、欧州では1939年(昭和14年)9月にナチス・ドイツが西からポーランドに侵入し、これに対し英仏が宣戦を布告した。秘密裏にドイツと不可侵条約を締結していたソヴィエト・ロシアも東からポーランドに侵入し、大規模な戦争状態となる。日本政府は欧州戦争への不介入方針を維持していたが、これを改め1940年(昭和15年)9月には日独伊三国軍事同盟が締結され、翌年の12月には帝国海軍がハワイ島のパール・ハーバーを攻撃し、世界最大の軍事大国である米国を巻き込んで総力戦に踏み込んでいくことになる。


 各国の成年男子はいつ徴兵されるかも分からず、一方で戦争を継続させるために各国ではプロパガンダ政策が遂行され、人々はいつ死ぬかわからないやけっぱちの気分にかりたてられていた時代である。このような世界的神経症状態を背景に、米国や欧州、そして日本を中心にもてはやされた音楽=スウィングは、狂騒的なダンスのリズムと、甘美なメロディと、ビッグバンドという大所帯によって奏でられるハーモニーで半ば強迫的にオーディエンスたちの官能を拡大させる麻薬のようなものであったと考えられる。トルストイの『クロイツェル・ソナタ』(1889年/明治22年)における「音楽は麻薬である」というテーゼはあまりに陳腐であり、麻薬の持つ精神的/肉体的依存性の強さと、音楽がもたらす高揚感に代表される精神的な変調を安易に比較するべきではないだろうが、「スウィングが麻薬である」というテーゼをここで仮に設定して、その魅力に迫る一助(きっかけ)となることを期して、このコンピレーションを編んでみた次第である。


  • 楽曲解説


  • 01.Glenn Miller and His Orchestra featuring Marion Hutton / Chattanooga Choo Choo(グレン・ミラーと彼のオーケストラ、唄:マリオン・ハットン / チャタヌガ・チュー・チュー)
    • 録音データ:1941年12月30日、場所:ニューヨーク州ニューヨーク市
    • 解説:グレン・ミラー(1904-1944)本人が主演した映画『銀嶺セレナーデ』のテーマ曲。作詞:Mack Gordon、作曲:Harry Warren。オリジナルは1941年5月7日に録音され、テックス・ベネキーとモダネアーズが歌った。いまに至るヒットチャートにおける"ミリオン・セラー"というタームを生み出した記念すべき一曲であり、当時驚異の120万枚以上が出荷された。グレン・ミラー楽団を、そしてスウィング時代を代表する楽曲のひとつである。(追記予定)


の挿入歌。作詞:Ralph Blane、作曲:Hugh Martin。(追記予定)

  • 04.Edgar Hayes and His Orchestra / Caravan(エドガー・ヘイズと彼のオーケストラ / キャラヴァン)

で歌詞が付いていなかった。(追記予定)

、ユーモラスでリズミカルなこの曲もすばらしい。(追記予定)

  • 06.Les Brown and His Orchestra featuring Doris Day / Sentimental Journey(レス・ブラウンと彼のオーケストラ、唄:ドリス・デイ / センチメンタル・ジャーニー
    • 録音データ:1944年11月20日、場所:不明
    • 解説:ドリス・デイ(1922-)の出世作となった1944年の大ヒット曲。(追記予定)
  • 07.Lena Horne With Lou Bring and His Orchestra / Stormy Weather(唄:レナ・ホーン、演奏:ロウ・ブリングと彼のオーケストラ / 荒れ模様)
    • 録音データ:1941年12月15日、場所:カリフォルニア州ハリウッド
    • 解説:レナ・ホーン(1917-2010)の出世作となった1943年のヒット曲。(追記予定)
  • 08.The Andrews Sisters With Vic Schoen's Orchestra featuring Bing Crosby / Pistol Packin' Mama(唄:アンドリュース・シスターズとビング・クロスビー、演奏:ヴィック・ショーン楽団 / ピストル・パッキン・ママ)

ーズの活動最盛期は1940年代である。(追記予定)


  • -
  • 10.Benny Goodman and His Orchestra / I Got Rhythm(ベニー・グッドマンと彼のオーケストラ / アイ・ガット・リズム)
  • 11.Lester Young and His Tenor Sax / These Foolish Things(レスター・ヤングと彼のテナー・サックス、/ ディーズ・フーリッシュ・シングス)
    • 録音データ:1946年3-4月録音、場所:不明
    • 解説(追記予定)
  • 12.Jo Stafford and the Pied Pipers featuring Paul Weston and His Orchestra / I Didn't Know About You(唄:ジョー・スタッフォードとパイド・パイパーズ、演奏:ポール・ウェストンと彼のオーケストラ / アイ・ディドント・ノウ・アバウト・ユー)
  • 13.Billy Eckstine And His Orchestra featuring Sarah Vaughan / Mean To Me (ビリー・エクスタインと彼のオーケストラ / ミーン・トゥー・ミー)
    • 録音データ:1945年(詳細不明)、場所:不明
    • 解説(追記予定)
  • 14.The Andrews Sisters With Vic Schoen's Orchestra / I Yi, Yi, Yi, Yi (I Like You Very Much)(唄:アンドリュース・シスターズ、演奏:ヴィック・ショーン楽団 / アイ、イ、イ、イ、イ)
  • 15.Judy Garland and the Merry Max / On The Atchison, Topeka and The Santa Fe(唄:ジュディー・ガーランドとメリー・マックス / アッチソン・トピカ・サンタフェ)
    • 録音データ:1945年9月20日、場所:不明
    • 解説(追記予定)
  • 16.Claude Thornhill and His Orchestra / Hang Out The Stars In Indiana(クロード・ソーンヒルと彼のオーケストラ / ハング・アウト・ザ・スターズ・イン・インディアナ
  • 17.Count Basie and His Instrumentalists and Rhythm / Swingin' The Blues(カウント・ベイシーとヒズ・インスツルメンタリスツ・アンド・リズム / スウィンギン・ザ・ブルース)
  • 18.Count Basie and His Orchestra featuring Jimmy Rushing / Bye, Bye, Baby(カウント・ベイシーと彼のオーケストラ、唄:ジミー・ラッシング / バイバイ、ベイビー)
  • 19.Billy Eckstine And His Orchestra / Mr. Chips(ビリー・エクスタインと彼のオーケストラ / ミスター・チップス)
    • 録音データ:1945年(詳細不明)、場所:不明
    • 解説(追記予定)
  • 20.Jo Stafford With Paul Weston and His Orchestra / I'll Be Seeing You(唄:ジョー・スタッフォード、演奏:ポール・ウェストンと彼のオーケストラ / アイル・ビー・シーイング・ユー)
    • 録音データ:1944年(詳細不明)、場所:不明
    • 解説(追記予定)
  • 21.Lennie Tristano Trio / I Can't Get Started(レニー・トリスターノ・トリオ / 言い出しかねて)