江戸川乱歩「三角館の恐怖」(角川文庫)読了。



表題作はお屋敷殺人もの。
だんだん乱歩の探偵小説の手法(犯人は理知的で、挙動不審な描写をされる
人物は大抵犯人でないというパターン)が分かってきたような。乱歩の文章を
読む愉しみというのは、推理ものを読むとき特有のワクワク感もさることながら、
個性溢れる筆致による状況描写にある。人がどんどん死んでいくにもかかわらず
舞台となる前時代的な風景が醸し出す不思議なユートピア感と、どこか牧歌的な
非日常性の妙味がすばらしい。彼岸な空気を胸一杯吸い込みたいなら乱歩を読むに
限るなあ。この文庫には、他に短篇「算盤が恋を語る話」「モノグラム」「火縄銃」と
中篇「月と手袋」が併録されていて、その中で読み応えがあるのは「月と手袋」
だろうか。他の作品はどれも習作的な雰囲気が漂い、それもまた悪くないのだが。


Mさんのご好意で