返事:タキネコさんの小谷野敦『もてない男』 その1へ



「童貞」にかんしてはあまり興味がないと言えるかもしれません。精神的な童貞(童貞精神)には興味があると言えそうです。


みうらじゅん/伊集院光D.T.』(メディアファクトリー)は以前読みました。これはむろんご指摘のとおり、「脱童貞を成し遂げた男による“ネタ”」という部分もありますが、むしろ精神的な童貞(童貞精神)について熱く語った本で、笑えます。また、渋谷知美日本の童貞』(文春新書)は「脱童貞を成し遂げられない男」にいくつか提言をしていて、大体以下の点にまとめられます。

  • 必ずしもセックスできたこと(童貞喪失)がモテ(注 一般的な「もてる」)につながるわけではないので、童貞は、既存の童貞=悪(ダメ)言説から自由になれ
    • 方法としては「セックス」を特権化をせず、また、「非童貞」を特権化しない方法がある(性にまつわるあれこれの優先順位が自分の中で低いと信じられればいい、ということ)。
    • あるいは徹底的に、女に媚びれば童貞のひとつやふたつ喪失できるだろう
  • (結論としては)社会における性から特権性を剥ぎとって、性を「私」に返してやれ



わたしの記憶によれば小谷野氏はこの渋谷の著書にも批判を加えていて、それはおそらく彼の定義する「もてない」と渋谷氏の「もてない」には、決定的にずれがあって、根本的にその点が容認できないからだと思います。また、わたしは「社会における性から特権性を剥ぎとって、性を「私」に返してやれ」という渋谷氏の主張については同意できません。


ここで蛇足として、ごらんの皆さまに押野武志童貞としての宮沢賢治』(ちくま新書)を紹介しておきます。これは賢治がコミュニケーション不全(オナニスト)であったのではないかという仮定から、「聖人君子」然に偶像化された「賢治」像を覆そうとする試みですが、なかなかおもしろいです。病的な自己犠牲精神をもった強烈なナルシストとしての賢治像が提示されるので熱烈なファンの方にはお勧めできませんが、気が向いたら手にとって頂けるとうれしいです。