2-4 前近代日本の「おかず」について



筆者は春画(「徳川時代の浮世絵の一変種」であり、「男女のまぐわいを、その性器の部分を拡大して描いたもの」(56))を紹介し、これがオナニーの「おかず」であったことをタイモン・スクリーチの発言(「春画はオナニーの道具である」)を引いて補強している。また「徳川時代にはそもそも「裸体」というものがエロティックだという意識がなく、だからこそ中期まで銭湯は混浴だったのだ」(同)という言説について「明治期に入ると、写真の普及に応じて、わりあいすぐ女のヌード写真が絵はがきなどの形で売り出されるようにな」ったことを根拠として「男が女の裸を見て何も感じない、ということはさすがになかったのではないか」(同)と考えているとする。また、春画のような「絵だけが「おかず」たりうるわけではない」(58)という着想から、紫式部による『源氏物語』が、長く「人をエロティックな気持ちにさせる悪書と見なされてきた」ことを踏まえ、「この物語が「おかず」として用いられた可能性は否定できない」(59)としている。