2-5 自慰することの問題



筆者は、十八世紀スイスのサミュエル・ティソが「オナニー有害論」を提唱し始め、それ瞬く間に欧州を席巻し、やがて明治期の日本にもその思想が流入し「実際、明治から昭和にかけて、多くの、もっぱら若い男がオナニーに対する罪悪感に悩んだ」(60)と言う。また、赤川学の論文で「オナニーが不健全だという考え方は徳川期日本にもあった可能性が否定できない」(同)と言っていることを踏まえて、西洋と日本を問わず、「オナニーは有害である」という言説があったことを指摘する。また、「オナニーを「恥じる」という感覚というのは、本来相手があってすべきことを一人でしている、というところから来るのだろう」とし、「問題なのは、オナニーをすることではなくて、セックスの相手がいないことの精神衛生上の問題であるはずなのだ」(62)と結論付けている。