音楽の具象と抽象



I わたしは『南米』を聴いて、これは具象画であるな、新具象であるという印象を強く抱いたんですが、菊地さんは、現代の大衆音楽というものは、どういった方向に進んでいると考えてらっしゃいますか。


K 今、音楽が抽象に向かっているという感じは凄くありますね。音楽が「音」に立ち戻るというところから、電子音楽が生まれて、現代の音響派みたいなムーブメントまで生まれているのですけど、それもさすがに飽和状態で、閉塞状況にあると言っていいと思います。


I はい。具象絵画というのも、メディアとテクノロジーの発展に伴って、人間の知覚の細かいコードを再構成していくという歴史がありますね。『南米のエリザベス・テイラー』という作品を聴いたときにも、最初はオーソドックスなジャズに聴こえたのですが、なんども聴いていくと次第にそのフォルムが変わっていくような、プリズムのような音楽だと感じました。