「時間」に注目し、「世界」を感じること



I 今、わたしは「時間」について考えることが、政治や経済、この社会について考えることの何よりも重要だと思うんですね。


K まったく同感ですね。クロノス的な「時間」、過去、現在、未来という直線的な「時間」は静的な秩序として、われわれの生の中に完全に組み込まれていますね。


I はい。メランコリーと(時間の)スピードに対抗する方法として、人生の時間を自分でコントロールすることが必要だと思うんですね。わたしは今、『陶酔論』という作品を書いているんです。ここにいらっしゃる皆さんはあんまりご存知ではないかと思いますが、ギリシア神話に出てくる神としての時間というのが三つあります。ひとつはクロノスです。クロノスは自分の子供を貪り食ってしまう神です。これは、いわゆるわたしたちが今生きている「時間」というものを象徴しているわけですね。他にアイオンと、カイロスという時間の神がふたりいます。アイオンは「純粋時間」を指し示す存在ですね。カイロスは「好機(チャンス)」というものを示しています。このアイオンとカイロスの象徴する時間を取り入れることで、わたしたちは生々しく生きる感覚を再獲得できるのではないか、というような話なのですね。


K すばらしいお話ですね。大変楽しみです。


I 著作の中で、他には「旅」と「他者」の獲得、「流浪」と「全体的な思考」の関係についても触れています。


K なるほど。ルーツ(roots)という思考、問題がありますね。ぼくは(最近)銚子に行って改めて思ったんですけど、失われたからこそ思い出すんですね。過去の記憶の中でのあの街は、汚いです。汚いものでしょう。しかし、それが失われるとき、失われたときに生まれる新しい状況というものがありますね。


I まさに、わたしの今テーマとしている「陶酔」というのが、その状況に符合するところがあります。英語では陶酔をecstasyといいますね。このエクス、という音(接頭辞)は、外(部)に出るという意味なのですね。陶酔とは、今おかれている状況から、外に出ることであると。


K なるほど。よく分かります。


I 最後になりますが、エロティシズムも、エキゾティシズムも世界の感じ方であって、それを身体化させていくということが必要ですね。


K そうですね。最近「スローライフ」などと言って、持て囃していますが、ひとが時間を早く感じるか、遅く感じるかは相対的なものですからね。「スローライフ」という考え方は、しょせん「忙しさ」から、「早く感じること」から延命するひとつの策に過ぎません。抜本的な問題解決には至りませんね。


I はい(進行役田口氏の様子を窺って)あー、もう時間でしょ?あ、時間あるんだ。それじゃあ、何?質疑応答か。質疑応答ですね。


K では、このあと質疑応答に入りたいと思います。ありがとうございました。


18時35分ころから始まった対談は19時20分ころいったん終了。その後約40分ほど質疑応答がありお開きとなりました。