ラッシェル・ベイカー、宮城音弥訳 / フロイト その思想と生涯(講談社現代新書)



精神分析については筒井康隆菊地成孔が書いているものくらいしか読んだことが無かったので、フロイトがどんなひとだったのか、ということに興味を抱き読んでみた。20世紀初頭にユダヤ人であること、周囲の無理解、子弟との別離、自身の過敏な精神など、フロイトは幸福な人生を送ったとは言い難い。伝記としての構成は、はっきりとして分かりやすく、完成度の高い書物である。
性欲や、幼児期の親子関係に精神の傷の主な原因を求める傾向の強いフロイディズムには首肯できない部分もあるが、それで治療されて楽になった人がいる以上、精神分析は否定できない文学的イデオロギーである。