NHKスペシャル「鬼太郎が見た玉砕〜水木しげるの戦争〜」(8月12日放映、総合テレビ)



あまり期待しないで観たのだけど、制作陣のしげぇさんへの強い愛と、妥協しないハードな精神が伝わってきた。水木ファンでないひとは切り捨てる側面もあるかな。あと、第二次大戦の概要を知らない若者なんかは切り捨てられざるを得ない。いちいち説明しないから。この作品を観て、触発されて、学ぶというプロセスが生まれれば理想的だなと思うけど、現代人の多くはテレビ番組にそういう価値を見出さない傾向が強いから、こういう素朴な啓蒙精神は嫌いじゃないけど...どこまで届くんだろうか、と疑問も感じた。

 主演の香川照之は良かった。たいへん研究している。研究精神だけじゃなくて身体の技能もある。彼の演技を見ているだけで、「こりゃすごいテレビドラマだ」と思えた。

 これだけ登場人物が「食」に執着する構成で完成させたというのも驚異的。いや、水木まんがはそういうものなんだけど、それをテレビでやる心意気に打たれた。この構成だけで、製作陣がいかに水木先生を、そしてその作品を敬愛しているかというのがわかる。ホントに心打たれた。もしゃもしゃ食ってるものね。水木擬音が聞こえてきそうだった。

 大友良英の音楽も良かった。わかりやすいセンチメンタルじゃなくて、水木まんが=物語の乾いたユーモア感や「点描」の怖さや生きることのなさけなさを、即興的な雰囲気のアブストラクトなサウンドで、ざらりと飾っていて、音楽がでしゃばらない感じが良かった。これがベタベタな「悲惨な戦争だぞ。どうだどうだ。泣け叫べわめけ」というような音楽だったら興ざめだものね。