ポール・オースター / シティ・オヴ・グラス (山本 楡美子、郷原宏訳、角川書店)



まずはタイトル、どうにかならなかったのか。素直に「ガラスの街」と訳せば良いと思うのだが、片仮名で書く必然性はないだろう。ただこの作品は1989年に出版されているので・・・まだ当時の日本にちょっとバブリーでアーベインでなんとなくクリスタルな気分があったのかなーと思わないでもないですよ。にしても、シティ・オブ・グラスってタイトルはひどいと思う。


事件らしい事件が起きないこの小説、読んでいて実に不安な気持ちになってくる。後半の息つかせぬ展開が白眉だ。しかし、主人公の詩人演じる探偵が、依頼主の父親に出会ったあたりで、不条理な結末についてはだいたい予想がついてしまった。予想がついても、読ませる筆というのはたいしたものである。読者を不安な気持ちにさせる作品を書けるというのも才能に違いない。