ティンパンに逢いましょう@原宿サバスTokyo
SOUNDS INVOLVE AND RELEASE YOU !
ティンパンに逢いましょう
at 原宿サバス Tokyo (2000.10.10)
出演:Tin Pan (細野晴臣、鈴木茂、林立夫)、東京ボーイズ
司会:川勝正幸(エディター)梅村女氏(リワインドレコーディングス販売促進部)
10月1日、午後10時。ぼくはおそるおそる、応募メールの送信ボタンをクリックした。
10月6日、家に帰ると、机の上に、オレンジ色の封筒が、あった。
差出人は、株式会社ミディアム。
おそるおそる、封を開くと、ティンパンに逢いましょうと書かれた下に、
ピンク色の
INVITATION の文字。
招待状だ…!
★★★
10月10日、秋晴れの日差しの中、原宿駅で、山手線を下りた。
肌を刺し、目を突くような明るさが妙にものがなしい。
竹下通りを通って、明治通りに出る。
いつ歩いても、慣れない場所だ。
諦めたようなけばけばしさと、辺り一帯が浮き上がっているような
感覚を覚える。
竹下通りを抜けて、明治通りを左に折れ、歩く。
歩く。歩く。明治通りを歩く。
歩く。歩く。
あっ、ビクタースタジオだ。
歩く。
外苑西通りを歩く。
サバス Tokyo
前。開場の15分前だ。
その割に、人が少ない。
宇野問答さんがいる。会うのは2回目。
問答さん 「昨日、何聴くか迷って」
ぼく
「うん」
問答さん「それでスウィング・スロウ聴いてました」
ぼく
「あ、同じだ」
ささやかなシンクロ二シティ?
なぜかうれしい。
ティンパン話。オランダのレーベル、バスタの話、などなど。
楽しい。
‘関係者’的な雰囲気がやってくる…。
そして…
4:20PM
20分押しで、「Tin Pan に逢いましょう」は、
はじまった。
前篇
司会の、エディター、川勝正幸氏、そしてリワインドレコーディングスの販促担当の梅村さんが登場。
オモシロイあいさつの後、アルバム『Tin
Pan』に参加された、ゲストミュージシャンの
メッセージが舞台の上のプロジェクターに映し出される。
まず、大貫妙子。
「夢のようです。一体、何十年まったんだろう、この時を。
窓を開け放して、虫の声を部屋に入れながら、小さい音でこのアルバムを
聴きました。皆さんも試してみてください」
次に、中村一義。
「『Tin
Pan』は音のさざなみというか。毎日聴いてます。こんなぼくで良かったら、
また呼んでください」
最後に、空気の入っていない自転車の大写しで終わる。
田中信一、コシミハル、なぞのフランス人(失礼)の
お三方は、『Tin
Pan』の完成を、早口言葉でお祝い。
そして、細野晴臣の母校、港区立白金小学校(※1)の小学生3人から
ボー読みの、メッセージ。
にくい。
続いて、ファックス、メールでのミュージシャンのメッセージ。
なんだかティンパンの誕生日会というより、何か結婚式みたいで
なくもない。
コーネリアスこと、小山田圭吾、岸田繁(くるり)、
堀込高樹、堀込泰行(キリンジ)、山本精一(ボアダムス/思い出波止場)
忌野清志郎(手書きのファックス!)、大瀧詠一、矢野顕子。
以上の面々。
すごく豪華だ。
続けて、前座として(!)、芸歴36年の演芸界の大ベテラン、
東京ボーイズが登場。
しゃみせん、アコーディオン、ウクレレの‘ぼういず’に
場内は爆笑と拍手の連続。
楽しい。
それだけでなくて、心底感嘆した。
こんなやりかたで態度表明するなんて、
すごくクールだ。
Tin
Pan の意気込みが、配役(!)、そして、
場内の笑いから伝わってきた。
すごくいい。すごくいいアンビエンスだ。
そして、Tin Pan
こと東京ティンパンボーイズ、登場。
まず、演奏。
レコーディング中にしばしばジャムったという
通称「インド」という曲を演奏。
あやしい、感じ。
ジェントルだけど、限りなく、エキゾティックで、エロティック。
音が、ぼくを誘惑した。
つづいて、トークに移る。
川勝氏の質問に、Tin Pan
のメンバーが順繰りに
答えていくというかたちで始めることになる。
川勝 「ティンパン結成のきっかけをおしえてもらえますか?」
林
「去年、あるパーティーでぼくと(鈴木)茂が久しぶりに会って、
その時に何かやろうということになって、声をかけるのは、
細野さんしかいないということになったの
」
細野
「昨年の(デイジーワールドの)クリスマスの時に、
この3人(細野、鈴木、林)と久保田真琴とふたごの姉妹と
演ったときに、思いのほか楽しかったんだ。その流れもある」
川勝
「またあの(ティン・パン・アレー)の3人で集まってやる、ということで
プレッシャーのようなものは無かったですか?」
林
「プレッシャーというのはなかった。それよりもどういうことをやりたいのか
ということのほうが問題だった。どういうふうに焦点をしぼるのかっていうこと」
細野 「そしたら、(鈴木)茂が何か新しいことやりたいって言うんだよ」
鈴木 「それ、覚えてないんだよなぁ 」(場内笑い)
細野
「それで、ぼくと茂でぼくの自宅にあるスタジオで会って、じゃあ3日後に
会おうってことになって、3日後に会ったんだよ。そしたら茂の曲が出来ていない。
4小節しかできていなくて、茂は『もっといいのができるはずだ』っていうんだ。
その時、良いサゼスチョンをしてくれたのが、久保田真琴で。彼は『ティンパン
は、バンドというより演奏家集団だから、即興(演奏)をした方が良いよ』って
言ってくれたんだ。それから上手く行くようになった。フレーズを作ることが、作曲なんですよ。
それで、彼は、久保田真琴は、実はティンパンをプロデュースしたかったみたい。」
川勝 「
その、昔15、6の頃に三人で演奏していた、その頃の感じのフィードバックというようなものは
ありましたか? 」
林
「う〜ん、なんていうんだろう。きざな言い方になっちゃうけど、英語で言うスポンテイニアス
というか、偶発的というか。昔(ティン・パン・アレーの頃)は、曲は出来ていて、それを演奏しながら
だんだん変えていくっていうやり方(ヘッド・アレンジ)だったじゃない?」
細野
「キーボードをいれようか、いれまいかというのを迷ったんだけど、キーボードが入ると
こう、何か流れが決まっちゃうっていうようなところがあって、結局入れないことにした。それが
今回は正解だったかもしれないね
」
川勝 「
今回、70年代当時に録音していた昔のテープにオーバー・ダビングして
完成した曲があるそうですが 」
細野 「 それは『HOSONO
BOX』というのを出す時に、もう全然聴いていないような昔のテープを
引っ張り出してきて、その中から自分で何曲か、『HOSONO
BOX』に入れたんですけど、
今回のテープは、ぼくも見つけていないところから、スタッフが見つけて、持ってきて。
それが良かったから、使ったんです。’76年頃、ちょうどぼくが『はらいそ』を作ろうとしている時で、
その時遊びで録っていた音で、『フジヤマ・ママ』という曲と、題名の無いブルース(※2)なんですけど。」
川勝 「そのテープを林さんはどのように聴かれたのですか?」
林
「ふしぎな興奮がありましたね。音楽って聴き直すと、その時のことを思い出すでしょ。
その時の雰囲気とか、その時着ていた服とか、
その時好きだったものとか。そういうことがフラッシュバックする。
そういうふしぎな感じがありましたね。
」
川勝 「茂さんは?」
鈴木「うん、変わってないな〜というか。まあ、昔のカセットで、音は悪いんだけど。
その、S/N比が悪いとか良く言うんだけども。
でも聴いているうちに、そういうのにも段々慣れてきて、上手くまとまった、っていう感じですかね」
川勝
「ゲストのミュージシャンの方たち、これは今回非常に豪華な方々ですけれども、
それはどのように、その、(一緒に)演ることになったんですか?」
細野
「昔ティン・パン・アレーというグループをやっている時は、レコーディングでは
ぼくらはゲストミュージシャンというか、
インストグループですから、サウンドプロデュースというかたちでボーカルと関わることになった。
でも誰かがうたわなくちゃいけないこともあって、その時はいやいやぼくがうたってたりしたんですけど。
それで今回、ボーカルが必要だって考えてる時にね、まず大貫妙子からメッセージが届いた。
『Tin
Pan
でやってるんなら、私も参加させてほしい』って。それからラジオの番組の収録で、
矢野顕子に会ったんですけど、その収録の後で「何で、やらせてくれないの」って言われて。
あと、ある日、夜中の2時ごろに忌野清志郎から電話がかかってきて。
彼はその時すごく酔っていたんだけども
『何で呼んでくれないんだ』って。別に何で呼ばないかっていう理由も無いんだけど。
大瀧詠一には今回ぜひとも参加してもらいたくって、おそるおそる福生まで会いに行きました。
このぼくでもおそるおそる(笑い)。それでその時録っていた音が、今から20年ぐらい前かな、に出た彼の
『ナイアガラ・ムーン』というアルバムに入っていた『ハンド・クラッピング・ルンバ』という曲に非常に良く似ていて、
それでその曲ぼくはとても好きだったから、やりたいな、と思って。で、この自分のベース良いな、と思っていたら、
実はぼくじゃなくて弾いているの、小原礼だったんだよね(笑い)。
まあ、そういうことで、スタジオに、大瀧に来てもらったんだけど、
彼は、『これはこういうふうがいいんじゃないのォ』なんて感じで仕切りだしたの。
それで、即刻帰っていただいて(笑い)、
で、(『ハンド・クラッピング・ルンバ』の)音を送ってもらってね、
それを聴いた時にはこれは出来るな、と思いましたね」
※1港区立白金小学校は細野晴臣の母校である。10月29日(日)午後6時10分〜6時45分
放映予定の
NHK総合テレビ『課外授業 ようこそ先輩』に細野が出演することになり、今回のメッセージが収録されたようだ。
※2 アルバム「TIN
PAN」(2000年11月22日発売・RWCL-20009)では、8曲目に収録されている『76 Tears』
として完成した模様。
後編
川勝「今回アルバムのレコーディング中に、奇跡というか、マジックが起こったそうですが、
そのことについて教えてください」
細野「マジックっていうと大袈裟になっちゃうんだよな」
鈴木「今回は、あらかじめアイデアをもちよって、スタジオで何かやる、っていうのが上手く行かなくて、
なにかシンプルな曲をやったり、ジャムセッションからはじめたの」
細野「それでうまくいってできた曲が『フラワーズ』という曲で、奇跡っていうのは、ちょっと言い過ぎたかな」
川勝「それでは今後の予定を教えてください」
細野 「12月20日、NHKホールでやります。それから忌野清志郎の
ライブ(※3)に手伝う(ゲスト)、という形で。今月の・・・何日だったっけ」
林 「27日」
細野 「今月の27日には、林君が主催する(東京国際フォーラムホールAで行われる)
『GROOVE DYNASTY
2000』に出ます。あと関西のほうからも是非観たいという、要請がありまして、
12月の25日に神戸のチキンジョージといったっけ、そこで演る予定です」
川勝 「そして次のアルバムは…という話になるんですが。どうでしょう」
林「ぼくは、今回のアルバムの最後に入っている『Growth』この曲の意味を、発展、と
捉えているので、できれば今後もやりたいですね」
川勝「茂さんは今、新作のレコーディング中だそうですが」
鈴木「うん、新作(のレコーディング)やってるんだけど、なかなか進まなくて…。
いや、まあちゃんとやらなきゃいけませんよね」
細野「今度は、ぼくじゃなくて、ふたりがやってくれるんでしょ(笑い)。
ぼくは次は、手伝うっていう形でね、やりたいですね」
川勝「細野さんは次のアルバムという話もありますが…」
細野「アッ!そうだ(笑い)。忙しくてすっかり忘れてた。
ソロも…来年にはやりたい(※4)ですね」
梅村「それでは最後にもう一度ティンパンに演奏をしていただきましょう」
★★★
細野「えっと、これは元々古いニューオーリンズのブルースなんですが、
『トラヴェリング・ムード』」
♪『トラヴェリング・ムード』♪
(拍手!)
細野 「えーっと、もう1曲やっちゃうことになっちゃうのかな。奇跡なんて言ったけど、
普通の曲です、『フラワーズ』」
♪『フラワーズ』♪
(拍手 !!!)
梅村「えー、もっと聴いていたいんですけど、アンコールはなしということで、
この続きはライブの会場でお楽しみください」
川勝
「では、『ティンパンに逢いましょう』、この辺でお開きということに
させていただきたいと思います。みなさま、ありがとうございました」
文中敬称略
(※3)ある筋の情報によると、このライブは忌野清志郎が変名で参加している
ラフィータフィーのライブだということで、チケットの獲得はすでに不可能らしい。
(※4)来年は、UNITED
ARROWS DAISY WORLD(J-WAVE)で放送もあったように(詳細はこちら)、
YMOのお三方が集まり、動き始めるようでもある。これとソロが何らかの形で重なるのか、
それとも別プロジェクトになるのかは不明だが、
とにかくファンにとっても、嬉しい悲鳴が絶えない年になりそうである。
TIN PAN の演奏について
文:ウツボカズラ
sounds involve and
release you ★ text by Utsubo Kazura
ティンパンの演奏…。
その音楽について完璧なイメージを提示することは不可能だが、
舌足らずながら、かたってみたいと思う。
今回のコンベンションでは、都合3曲(『インド』『トラヴェリング・ムード』『フラワーズ』)が演奏された。
『インド』では細野さんはハーモニウム(鍵盤楽器)を操りながら、ふしぎなたいこ(アフリカのドラムだろうか?)を担当。
茂さんは何というのだろう、あれは。インドの怪しい竪琴のような、楽器。林さんはドラムス。
後半の2曲では、茂さんはストラトキャスター(エレキギター)そして、ハリーも電気ベースに持ち替えて
(写真でみたことのあるベース・ギターでしたが、名前を失念)グルーヴ!
林さんの常に楽しそうな笑顔と、ハリーと茂さんのクールな姿が印象的だった。
★★★
ぼくは特に後半の2曲に圧倒された。
全身の感覚が研ぎ澄まされるような感じと、脳(あたま)は
ボンヤリして音に支配されているような、混沌とした状態になって
聴き終わってから、ぐったりとした。
‘楽しい’という感覚を通り越していた。
刺激が強かった。
音楽に、凄く、自分を解放された。
目の前で細野さんがベースを弾いていて、
その音がビンビン胃に響く。
それは強いエネルギーだった。
音楽の魔法がそこにはあった。
ぼくは音に侵されて、ぐうの音もでなかった。
sounds invole and release
you.
まさにそれが音楽の魔法なのだ・・・。
TIN PAN はまさに、音、だった。
★★★
来月、そして
12月のNHKホールが楽しみです。