松本健一『「日の丸・君が代」の話』(1999、PHP研究所)読了。



'99年の国旗国歌法案を、国民投票で決めるべきだった、というのが筆者の主張。法制化すれば
国民に国旗や国歌が定着するわけではなく、なぜ日本の国旗が日の丸で、なぜ日本の国歌が「君が代
なのか、ということをきちんと説明すべきだったという論旨。広島の学校長自殺に絡んで、共産党
職員組合が「(式典で)君が代を歌わせる法的根拠がない」という主張をし、その挑発に自民党
乗ったという説明がなされている。しかし、自殺することは無いと思う。校長なんてクビになったって
いいじゃないの、と思いますが。ダメかね?教員社会が、左寄りってのは今も昔も変わらないみたい
なんですが、奇妙なことだよなあ(ぼくの父も小学校の教員なんですけど、やっぱちょっと左・笑)。


まあ、思い返してみると、高校時代、癖の強い先生が何人かいました。クリスチャンの先生もいたし、
キリスト教批判する先生がいたり(いちおうミッションスクールなのに・笑)右寄りも左寄りもいたと
思う。私学は公立よりわりとそういう部分は開かれてると思うんですが。あとは土地柄とかもあるのかな。
長崎、広島といった被爆地だと当然左派の力が強いだろうし。まあ詳しくは知らないんですけど。


イデオロギー的な話もそれなりにおもしろいんだけれど、史実がとてもわかりやすく書かれていて、
それもこの本は魅力的です。ぼくが面白かったのは、天皇制の歴史的変遷、「君が代」の歴史的変遷や、
諸外国での国旗や国歌の扱いと日本のそれの差異、そして国際法はいつも世界の強者が勝手に決めて
しまう、といった話。国際法(万国公法)は、国旗に絡んで出てくるのですが(公海上で航行する
船舶は所属する国の国旗を掲揚しなければいけない云々という話)、日本では江戸時代に黒船が
やってきて、いち早く諸外国に倣って自国で建造した船にも国旗を掲げたらしい。戊辰戦争では、
旧幕府側が、「日の丸」の旗で、新政府側が「菊の御紋」を掲げたという話も興味深かったし。


一番、心に残ったのは、明治時代、岩倉使節団が、ビスマルクに会って(当時の日本は関税自主権
治外法権の回復が課題だった)「国際法なんて、大国の力の前には無力なんだよ」と笑い飛ばされる
(実際はビスマルクが演説をしたらしい)という話。これはもう、いまでもまったくそうなわけで、
のび太がいかに理想を唱えても、ジャイアンに「おれのものはおれのもの、おまえのものもおれのもの」
と言われる構図というのは今も昔も基本的には変わってないんだな、と思いました。この世は野蛮だな。


北一輝の話と、三島由紀夫憲法の矛盾を指摘していた、というエピソードも面白かったです。
無知だといろいろ知ることが出来て楽しいのですが、「おお無知だなあ、物事を知らないで批判する
のは、気をつけなくちゃな」とも感じたり。先の校長先生自殺に関しても、そうかもしれないです。
まあ、それでも死ぬことはないと思うんだけどね、ホントに。とても読みやすい本なんで、これは
おすすめです。松本氏は麗澤大の教授らしいんですが、文章かなり上手です。知性を感じます。
この本で一番大事だと思う部分は、ここではあえて書いてないんですけど、興味があれば読んでみて下さい。